インフレ・円安どう対処? 日本を浮上させる戦略は
マネックスグループ社長 松本大氏(15)
ビジネスの視点日本の株式の中には、PBR(株価純資産倍率)が0.4程度と極端に低いものがゴロゴロあります。0.4とか0.5というのは現在の株価が本来の価値の半分かそれ以下しかないことを意味します。まともな企業ならPBRは少なくとも1.0に向かって上がっていくはずです。それがずっと低迷しているのは、持っている資産の割にもうからない構造が温存されているからです。
ぜひそういう株を買い、株主としてどんどん声を上げ、企業に変革を迫ってみてはいかがでしょうか。そうしてPBRが1に近づくようになれば、自分の資産も増えますし、日本企業の株価が上がれば、企業はより低いコストで資本調達をして海外の会社を買収したりできますから、日本全体の競争力を上げることにもつながる。そうすれば、自分たちで自分の国の力を高めることができるはずです。

「株を買い、株主としてどんどん声を上げ、企業に変革を迫ってみては」と話す
「どうでもいい国」へ転落の危機、今ならギリギリ間に合う
若い人たちにはぜひ、企業に対してだけでなく、国に対しても声を上げてほしいと思います。株価が上がらないのは企業だけの責任ではありません。日本の税制や会計制度にも大きな問題があります。例えば日本の会計基準だと、企業の買収が非常にやりにくい。国際会計基準との一番の違いは、買収価格から相手先企業の純資産を差し引いた額、いわゆる「のれん代」の扱いです。
近年、買収対象になるような企業は工場などの実物資産よりも、知的財産の価値が大きいケースが大半ですから、純資産額より会社の価値がずっと高くなり「のれん代」が大きくなります。ところが日本基準だとこれを最大20年かけて定額償却しなくてはならないので、買収する側の企業には過大な負担がかかります。結果としてその企業の株価も低迷してしまう。賃金だって上がらない。一方、アメリカの企業などが採用している国際会計基準であれば定額償却は不要なので、利益が相対的に押し上げられます。その結果、どんどん他の会社も買収でき、株価も上がっていきます。
私たちはそうやって日本企業と海外企業との差が開いていくのを、ただ指をくわえて見ているしかないのでしょうか。そんなことはないはずです。政治家ももっと真剣に、日本企業の価値を高めるための方策を考えるべきです。そして国民、とりわけ若い人たちには企業や国に対し、どんどん意見を言ってもらいたい。このまま何もしなければ株価も上がらないし、世界的なインフレの中で日本の競争力はますます低下していきます。日本という国自体が海外から見て「どうでもいい国」になってしまえば、どこかの国が日本に攻めてきても誰も守ってくれないでしょう。
今回のインフレや円安は、このままだと日本はヤバいぞと目を覚ます最後のチャンスかもしれません。今ならまだギリギリ間に合うと思います。
1963年埼玉県生まれ。87年東大法卒、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券を経てゴールドマン・サックス証券でゼネラル・パートナーに就任。99年マネックス設立。2004年マネックス・ビーンズ・ホールディングス(現マネックスグループ)社長、13年6月から会長兼社長。08年から13年まで東京証券取引所の社外取締役、現在は米マスターカードの社外取締役を務める。
(ライター 石臥薫子)