スキマ時間か没入感か 二極分化で広がる音声メディア
緒方憲太郎Voicy代表 VS. 渡辺将基・新R25編集長
ブックコラム批評はほかのメディアにお任せする

緒方憲太郎・voicyCEO
緒方 そのあたりの抽象度、解像度のさじ加減は大事ですね。
渡辺 そうなんですよ。あんまり抽象的すぎると、新R25のユニークさがわからなくなってしまうので、絶妙な解像度で言語化することが必要です。
緒方 意思決定をするときに、照らし合わせて判断できるレベルにしないといけないし。
渡辺 はい。「これはやらない」と、"やらないこと"で定義し、自分たちのキャラクターを出していく。新しいサービスを出すときも、そこがブレないようにしています。
緒方 例えばどういったことですか?
渡辺 僕らは「情報を伝える」というよりは、「背中を押す」ことに価値があると考えていて、「読者が一歩踏み出せるコンテンツを作ろう」という編集方針でやっています。
既に世のなかには大量の情報や勉強ツールがあるので、情報を取りに行ったり勉強したりというのは、本人がやる気になりさえすればできると思うんですよ。だから僕たちは、そこで背中を押せるコンテンツを出していきたい。
もちろん、批評などもメディアの大切な役割ですが、そこはほかのメディアにお任せして、僕らはやらない。リアリティーや臨場感を大事に、読者や視聴者が考えていること、感じていることを必死に想像して代弁していく、親近感や距離感を体現する、ポジティブなコンテンツを目指しています。
強みは「チームの仲の良さ」
渡辺 でもこういった思想って、チームの中に浸透させるのは簡単ではないんですよね。言葉で伝えるだけではなかなか伝わらない。同じ空間で働いてみんなでコミュニケーションをしていかないと、意外と伝達しにくいものだと感じています。
うちは、中のメンバーの仲がいいというのがメディアとしての一番の強みだと思っています。そういう空気感を持ってみんなでコンテンツを作るのがいい。
仲がよさそうなグループって人気になるんですけど、仲たがいしたユーチューバーってすぐに人気が落ちていくんですよね。
緒方 動画も音声も、「本人性」が出るメディアなので、本当に楽しんでやっているか、そうでないのかは、視聴者にすぐに伝わってしまいます。
渡辺 仲が悪いメディアって、ダメだと思うんですよ。メディアを運営する中で、作る側のチームの空気感はすごく大事にしています。
緒方 耳が痛いというメディアの人たちもいそうですね。
(ライター 大井明子/聞き手は日本経済新聞出版 雨宮百子)
1980年兵庫県芦屋市生まれ。音声コンテンツ技術を手掛けるVoicy(ボイシー、東京・渋谷)の代表取締役最高経営責任者(CEO)。大阪大学基礎工学部、経済学部を卒業。その後、2006年に新日本監査法人に入社し、その後複数の監査法人を経て、2016年にVoicyを創業。地元放送局のアナウンサーを父に持ち、「語り口から人柄や温かみが伝わる」声を生かしたサービスの事業化に取り組んでいる。著書に『ボイステック革命』(日本経済新聞出版)。
1983年生まれ。慶應義塾大学理工学部卒業後、モンスター・ラボ、カカクコムを経て、2012年にサイバーエージェントに入社。社長室にてコミュニティ系サービスのUI/UXディレクション業務に従事したのち、2014年から新規メディアの立ち上げ・運営に携わる。2017年に『R25』ブランドを継承し、ビジネスパーソンのバイブル「新R25」を創刊。現在はCyber Now(サイバーエージェント子会社)の取締役および「新R25」の編集長を務めている。