どう読む上場企業の決算書 44の論点で押さえる勘所
『テキストには書いていない 決算書の新常識』
若手リーダーに贈る教科書全体は6章の構成となっており、まず1章は損益計算書、2章は貸借対照表、3章でキャッシュフロー計算書の財務3表の読み方を指南し、4章以降は「投資家目線と企業目線の違い」(4章)、「自己資本利益率(ROE)やROIC(投下資本利益率)、資本コストなど資本効率に関わる話題」(5章)、「最近注目されるESG対応や非財務指標、東証再編」(6章)という流れです。
本書の一番の特徴は、「『金持ち企業』はなぜネガティブに評価される?」「株価が高い会社はいい会社?」といった初学者の関心をひくような全部で44のトピックを設け、その解説を基本的に見開き2面の4ページでコンパクトにまとめている点です。しかも具体的な企業事例、豊富な図解やグラフ、表を取り入れ視覚的に理解できるような工夫もなされています。一般の解説書ではハードルが高いと感じる読者でも、まずこの分量であればとっつきやすいかもしれません。
そのうえで、なぜ、日本企業が国際的な会計基準の導入を進めようとしているのか、どうしてEBITDAやROEなどの利益指標を重視するのか、その背景をわかりやすく解説しています。長年にわたり企業研修の講師をつとめた著者の経験が生かされたものになっています。
日本人が長年慣れ親しんできた「ケイツネ(経常利益)」や「トクソン(特別損失)」などは、IFRS(国際会計基準)の浸透により、日本企業の決算書からだんだん消えてきているのです。
日本の会計のテキストには必ず書かれている損益計算書の説明「利益といっても5段階の利益がある」はもはや実態とそぐわなくなってきています。
バランスシートの見方についても同様です。これまでは自己資本比率が高く、借金(有利子負債)が少ない企業がいい会社とみなされてきましたが、その常識も揺らぎつつあります。
(はじめに 3ページ)
投資家にとっての「いい会社」とは
例えば、4章にある「株価が高い会社はいい会社?」のトピック。経営者をはじめ大多数の企業関係者は自社の株価に高い関心を持ちます。株価は過去、現在、将来の水準を比較してこそ意味があり、企業同士を比較しても無意味であると説明しています。投資家からすると、企業比較をするには、どれだけ稼いでいるか、収益力の比較であり、その基準はROEやEBITDAといった利益指標をもとにします。なぜ、専門用語づくしの利益指標が必要なのか、といった知識が自然と頭に入ってきます。
あるいはまた、2章の「『金持ち企業』はなぜネガティブに評価される?」という別のトピック。リスクをとらずに現金をためこむばかりだと、商品やサービスを生み出せず、成長にはつながりません。次の著者の説明は簡潔かつ明瞭です。「もちろん現金は資金繰りなど、事業活動を行うのに必要不可欠なものですが、現金それ自体は収益を生みません。その現金の比率が総資産に占める比率が高くなるということは、収益を生まない資産の比率が多くなるということなので、投資家から見れば決して好ましくありません」(57ページ)
「A社とB社のどちらのほうが高く評価されている会社でしょうか?」
研修などの場でこの質問をすると、「A社の株価はB社より2倍高いのだから、A社のほうがいい会社と評価されているのではないか」という回答がけっこう多くあがってきます。ビジネス経験のない大学生だけでなく、ビジネスパーソンでもこう回答する人が少なからずいます。
しかし正解は異なります。正解は「それだけでは何も判断できない」です。かつては日本企業の株式には50円の額面というものがありましたが、2001年の商法改正で今の上場企業の株式はすべて無額面になっています。
したがってA社とB社の株価の高低を比べてもそれ自体はほとんど意味をもちませんし、A社の株価がB社より高いからといってA社のほうが高く評価されているということにはなりません。
(第4章 投資家目線と時価総額 株価が高い会社はいい会社? 120ページ)