コーチング大手社長 KPMGコンサル時代に流した涙の力
ウエイクアップCEO 平田 淳二氏(上)
キャリアの原点3日間の基礎コースでコーチングに出合う
ある時、悩みを先輩に打ち明けたところ「コーチングを勉強してみたら」と勧められた。

平田氏はKPMGのコンサルタント時代にコーチングを学び始めた。写真は2012年に来日したCTIの創設者、キムジーハウス夫妻と。
コーチングは相手に教えたり指示したりするのではなく、対話をしながら相手が自発的に考え、行動するのを促す手法だと知り、興味が湧いた。「コーチ・エィ」と「CTIジャパン」というコーチング業界大手2社のうち、「割安だから」という単純な理由でCTIジャパンの基礎コースを受講。3日間で文字通りベーシックなコーチング理論を学ぶ内容だったが、習いたてのスキルで受講者同士でコーチングにトライしてみたところ、自分も他の受講者も驚くほどの発見があったという。拙いコーチングでもお互いにいい影響を与えられたことが純粋にうれしかった。
「一番びっくりしたのは、自分がどういう生き方をしたいと思っているかに初めて気付いたことでした。コース最終日、周りの人からは僕について『気遣いをする人』という印象を受けたと言われました。でも一方で『1回も笑っていない気がする。本当はもっとワイルドなところがあるんじゃないですか?』と。意外な指摘でした。でも言われた瞬間、ドキっとしたのです。当時、僕は一流のコンサルタントを目指してはいたものの、心の奥底では会社の中だけで有能だと評価されるよりも、もっと社外に出て自由に生きてみたい、普通とは違った生き方をしてみたいと思っていた。そんな自分でさえ気づいていなかった本音が出てきたことが衝撃でした。そして、それを引き出せるコーチングってすごい、面白いと思ったのです」
この体験をきっかけに、平田氏は本格的にコーチングを学び始めた。それは知らず知らずのうちに被っていたさまざまな「よろい」から解き放たれる過程でもあったという。
それまでコンサルタントである自身はいわゆる「左脳型人間」で、冷静、論理的であることを良しとしてきた。その姿勢が周囲には隙のない印象を与えていたのか、授業の中でペアを組んでお互いにコーチングをする機会があっても『じゃあ一緒にやりましょうか』と気軽に声をかけてもらえないことが多かった。
「感情」を取り扱う授業にも、当初は「自分は感情のコントロールは得意。今さら学ぶ必要はないのに」といい加減な気持ちで臨んだ。ところが実際にコーチングを受けてみると、これまで体験したことのないレベルで「悲しみ」や「怒り」といった感情が一気に押し寄せてきた。
ネガティブな感情もフタせず受け入れる
「動揺しました。自分を失ったような気がして怖いとすら感じました。でも、その後の講義で、自分の中で生まれた感情は、単なるエネルギーの浮き沈みであり、それをマイナスと捉えて抑圧することは逆に精神的に良くないと教えられた。そして、感情にフタをするのではなく、客観的に『いま自分はこう感じている』と認識し、受け入れた上で、不快や混乱といったネガティブな感情も、自身の人生を前に進めるためのリソースとしてうまく使っていくという考え方を学んだのです」
何事にも動じるまいと心をよろいで固めるのではなく、感情を素直に認め、受け入れるーー。従来の自分とはまるで違うアプローチには戸惑いもあったが、仕事でもプライベートでも少しずつそれができるようになると「心から喜んだり悲しんだりできるのは豊かな人生なのだ」と思えてきた。
最も厄介なよろいを脱ぎ捨てたのは、コースの終盤。同じ受講生の女性からコーチングを受けた時だった。それまで自身がコーチを受ける際、どこか相手のコーチ役の「お手並み拝見」的な冷ややかな態度で接していたが、その女性は臆することなく直球の問いを投げ込んできた。