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思い知らされた勘違い

しかしすぐに、自分の考えの甘さを思い知らされました。現地の大卒の同僚は、ほぼ全員英語がしゃべれます。日本人だからといって特に気を使ってくれるわけでもなく、ビジネス英語と現地の言葉で容赦なく会話が進みます。

現地では「日本人は技術力が高い、仕事も丁寧で精緻だ」と思われていると聞いたので、もっと厚遇してもらえると考えていました。技術力や仕事の丁寧さがあれば、多少語学力に難があっても勝負できるとも思っていました。しかしそれは大間違いでした。

現地の同僚からは「この国に来るなら言葉くらい一通りマスターしてこい」と言われます。「日本へ働きに行った俺の友人は、日本語だけでなく、日本の変わった習慣も覚えていったぞ」とも。

その同僚と話していて思い知らされたのは、稼ぐことへの貪欲さ、ハングリーさです。どんなに大変でも、日本語をマスターしておけば給与も上がるし、良い条件で採用してもらえる。疲れてもいないのに「お疲れさま」などと言い合う不思議な会話もあって友人は戸惑ったが、それも理解すべき文化だと考えて勉強した。なぜおまえはここに来るときに同じようにしなかったのだと言われて、返す言葉もありません。

同僚からは質問もされました。「アルバイトの時給は一般的に夜のほうが高いのに、どうして日本人は夜働かないのか」という質問です。

同僚の友人は、「夜は大変だから、面倒だから」と働かない日本人が不思議でたまらなかったそうです。夜働けば同じ時間で高い給与がもらえるし、昼間の時間を遊びに使えるといいます。「それでは睡眠時間が足りないのでは」と質問し返すと、「睡眠よりもお金と自由な時間のほうが大事だ」と言われました。

そして同僚に言われたのが、「日本人の真面目さは長所だというのは分かるが、それだけではごはんは食べられないだろう」ということです。真面目であろうがなかろうが、成果物がきちんと完成すれば関係ないじゃないかというのです。それに、そもそもきちんと働かない人は誰でもクビになってしまうよ、と言います。

日本で高めた技術力があればやっていけるだろうと思っていた自分は甘かった。それを思い知らされています。

◇  ◇  ◇

この架空のお話は少し極端だったかもしれませんが、多かれ少なかれこうした勘違いをしている日本人はいると筆者は感じています。日本と諸外国の関係性は急速に変わっています。この先のキャリアについて考えるときは、それを意識しましょう。

天笠 淳(あまがさ・あつし)
アネックス代表取締役/人事コンサルタント
早稲田大学商学部卒業後、IT企業、金融機関にて人事業務を経験。株式会社アネックス、一般社団法人次世代人材育成機構の代表として、働きやすい職場づくりを主なテーマとし、企業の人事、人材開発のコンサルタントを行っている。次世代人材育成機構では、代表理事として、学生の就職活動へのアドバイスや、社会人のキャリア支援を20年以上手掛けている。著書に『転職エバンジェリストの技術系成功メソッド』『オンライン講座を頼まれた時に読む本』(いずれも日経BP発行)がある。
[日経 xTECH 2022年9月15日付の記事を再構成]

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