「思考の達人」内田和成氏に学ぶ キャリアへの臨み方
あしたのマイキャリア「自分らしく生きる」とは何か
―内田氏
「自分らしく生きること」ではないでしょうか。問題は、自分らしさがわかっている人とわかっていない人がいて、それぞれ解決策が違います。前者の人はそれにふさわしい場所なり環境なりを探せばいいですし、なければそれを自分で作ればいいです。後者の人はある種の自分らしさを探す旅が必要で、私の22歳からの8年間はそれにあたります。自分らしさを探している最中はあまり決めつけずに探し続けたほうが、後々無駄にならないと思います。
私は8年間もんもんとしていましたが、コンサルになって一番役に立ったのはJALでの営業の仕事の経験でした。ビジネススクールで学んだ様々なスキルではなく、現場で何が起きているのか、現場の人がどういうマインドセットか、自分の肌感覚で理解していたことがコンサルではものすごく役に立ちました。自分らしさが何かわかっていなかったときは無駄に思えたことが、それがわかった後においてはすごく貴重なものになったということです。
―田中氏
目の前の仕事にしっかり取り組むことでたまった「キャリア資本」は、なくなるものではないので、無駄になることなく自分に残ります。一方で、先生は異業種転職を実現されていますが、異業種転職で一番意識すべきポイントはなんですか。
異業種への転職は背水の陣で
―内田氏
例えば、高校時代サッカーで全国大会に出るような人は、プロに行くか大学でサッカーを続けるか、大きな人生の選択を高校卒業時点でしています。もしプロで芽が出なければ、数年後には高卒で世の中に放り出されるわけです。それでもプロに行くのか保険をかけて大学へ行くのか、どちらが良い悪いという問題ではなく、プロスポーツ選手を目指すような人は「自分がどういう生き方をしたいか?」の選択を若いときにしているということです。

左=内田和成氏、右=田中研之輔氏
ところが、私もそうですが、普通に高校から大学へと進んだ人は、安易に一般的にいい会社とされるところに進路を決めてしまったりするわけです。基本的には「自分で考える」ということが大切で、異業種転職をすれば数年で放り出される可能性もありますから、それもてんびんにかけてしっかり考えることです。私の場合は、後先考えずにやりたいことを追求して、ダメならそこからまた違う人生を探せばいいと思いました。結果的にそのほうが生き方として幸せだと思うからです。保険をかけるのは一見良さそうですが、悔いが残る選択になるかもしれませんから、異業種への転職は背水の陣で臨んでもいいのではないかと思います。
―田中氏
仕事と自分のやりたいことは、やはり重ねていくほうがいいですか。
―内田氏
私はそう思います。よく学生から「いい会社を教えてください」という質問を受けますが、「あなたにとっていい会社」はあるかもしれませんが一般的にいい会社などありません。例えば、ブランドがほしいならGoogleはいいでしょうが、パーツの仕事しかできないかもしれません。しかし、名もない中小企業でも、Web回りもアイテム回りもすべて任されるなら、よほど成長できるし楽しいという考え方もあるわけです。「キャリアには正解がある」と考えがちですが、自分が何を目的とするかによっていい会社は変わりますから、「誰にとってもいい会社」というものはないと思います。
―田中氏
先生の思考法の中で、自分軸で考えることがキャリア自律において大切だと感じますが、自分らしく意思決定して自分らしい人生をデザインするためのアドバイスをいただけますか。
どんな人生を送りたいのか
―内田氏
自分らしさややりたいことが明確なのに環境が許さないという場合は、一番優先すべき軸を決めることです。例えば、家庭なのか出世なのかプライベートなのか、などです。一方で、自分らしく生きられないと言っている人の大半は、実はまだそこまで自分らしさが何かを突き詰められていなくて、その言い訳に使っているのではないかと私は思います。「本当はどんな人生を送りたいのか?」を突き詰めて考えることを、まずはやることだと思います。