アンラーンで過去の成功を手放す 再学習への第一歩
『アンラーン戦略』 バリー・オライリー著
リスキリングbooks脱学習すると、再学習の準備が整う。打撃フォームでいえば新しいフォームを身に付ける段階だ。新しくデータや情報、視点を受け入れる。この段階で大切なのは、「大きく考え、小さく始める」ことだという。「歴代シーズン最多本塁打」をねらうにしても、まずは1本目の本塁打を放ち、早く成果をあげることで自信をつけること、といえそうだ。脱学習と再学習が、ブレークスルーを導いてくれる。
アンラーンは、一度で終わりではない。ブレークスルーに満足せず、つねに古くなったものを脱学習し、新しいものを再学習して次のブレークスルーを目指し続ける。これが「アンラーンのサイクル」だ。このサイクルを当たり前に受け入れるマインドセットを身に付けることが、変化のスピードが速い時代を前向きに生きていくポイントではないだろうか。
インセンティブのアンラーン
本書では、「マネジメント」「顧客」「インセンティブ」などについてのアンラーンが、具体的な企業の例を引きながら紹介されている。一例が、米金融サービス企業のキャピタル・ワンだ。商業銀行やクレジットカード事業などを手掛ける同社は、コスト削減や製品開発のスピードアップのために、自社設備で運用していたシステムをクラウド・サービスへ移行することが必須だと考えた。
そこで、従業員へのインセンティブをアンラーンした。従来は、短期間の成果に対して個人にインセンティブが与えられていた。評価の基準を変え、アマゾン・ドット・コムが提供するクラウド・サービスAWSの認定資格を取得することなどを奨励して、個人のリスキリングを促進した。資格を取得した社員の名前を全社員に公表したほか、3段階上の上司にまでメールで知らせた。さらに、個人の努力が組織レベルの成果達成につながり、その成果が評価に反映されるよう、業績評価指標を調整した。成功の定義を変え、再学習したのだ。
結果、本書によれば、同社のAWSの認定資格者は技術者の15%をこえて増え続けており、同社の仮想化インフラの割合は、米国内の主要銀行の中でもっとも高いという。
組織が成長を続けるために、個人のリスキリングが必要とされるシーンは増えている。しかし、せっかくリスキリングした個人の力をいかすためには、組織自体のマネジメントやインセンティブのアンラーンが必要だということだろう。とくにリーダーとしてチームや組織を率いる方に、一読をお勧めしたい。
(情報工場 エディター 前田真織)
広い視野と創造力を育成する「きっかけ」として、様々な分野から厳選した書籍をダイジェストにして配信するサービス「SERENDIP(セレンディップ)」を展開している。「リスキリングbooks」は、「SERENDIP」で培った同社ならではの選書力を生かし、リスキリングに役立つ書籍を紹介する。