文庫コーナーで過ごす至福 小説は人間理解の手がかり
マネックスグループ社長 松本大氏(18)
ビジネスの視点本はネットで買える時代ですが、本屋に足を運ぶと思いがけない出合いがあるのがいいですね。例えば、先ほど挙げた萩原朔太郎は、本人の作品はそれほど数も多くないし、もちろん読み尽くしているのですが、去年末、萩原朔太郎と室生犀星の交流を描いたエッセーや互いの詩集に寄せ合った序文などを集めた「二魂一体の友」という文庫本を見つけました。
奥付を見ると2021年の8月の刊行なのですが全然知らなくて、ニューヨーク出張に備えて本をまとめ買いしようと丸善をウロウロしていた時に、偶然見つけました。これは朔太郎ファンの私にはたまらなく良い本でした。
数年前から風呂読みを解禁
雑誌コーナーも好きで、いつもざっといろんなジャンルの雑誌を見て回るのですが、先日びっくりしたのは「ユリイカ」です。みなさん、「ユリイカ」ってわかります? 1969年から青土社が出している詩と批評を中心とする総合誌ですが、私は高校生の頃、これを愛読していました。
先日、久しぶりに読んでみたくなって探したところ、ありました。あるにはあったんですが、なんとその中に詩は載っていませんでした。もはや今の時代、詩にはニーズがなくなったのかなと思って、最近の号をネットで見てみたのですが、たまげましたね。ことし5月号の特集は「菌類の世界」ですよ。私のように過去のユリイカを知っている人間には、信じ難いことですが、まあそれはそれで面白そうだったので、ついポチッと買ってしまいました。
本や雑誌って、理想としてはじっくり読みたいところですが、なかなかまとまった時間を取るのは難しいので、もっぱらすき間に読むようにしています。先ほどお話ししたように、人一倍本へのリスペクトがあるせいか、「風呂で読むなんてとんでもない!」という呪縛があったのですが、数年前についに風呂読みを解禁しました。文庫本や雑誌を持ち込んで、最近愛用している骨伝導のイヤホンでバッハを聴きながら読む。
これ、最高です。ちなみに、音楽に関して私はジャズやロックが好きですが、その手の音楽だとどうしても音のほうに没入してしまうので、読書のお供はクラシックと決めています。ショパンやモーツァルトだとやはりそちらに気を取られてしまうので、淡々としているバッハがベストです。ああ、また今夜あたりぬるめのお湯で長風呂して、積読してきたあの本をじっくり読みたいな〜。
1963年埼玉県生まれ。87年東大法卒、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券を経てゴールドマン・サックス証券でゼネラル・パートナーに就任。99年マネックス設立。2004年マネックス・ビーンズ・ホールディングス(現マネックスグループ)社長、13年6月から会長兼社長。08年から13年まで東京証券取引所の社外取締役、現在は米マスターカードの社外取締役を務める。
(ライター 石臥薫子)