何を議論すべきか 意外に難しい事業計画の論点設定
【新任役員の苦悩】編 (1) 事業計画に社長のOKが出ない
会社員社長1年目の教科書
現場理解をすすめていくために、学者である関満博氏の『現場主義の知的生産法』を(ちくま新書)お勧めしたい。新書版は残念ながら現在品切れ中だが、電子書籍なら入手可能だ。
本書は1冊目のようなきっちりと体系だった思考法を教えてくれるわけはないが、現場理解のためには、人間関係を作ることが大事であることを示してくれる。
本書のメインは、関氏のモンゴルでの現地調査の様子を描写する部分だ。なるべく身軽な装備で現地に入り、街を見回しながらマクロ経済状況のデータと現実を照らし合わせ、ヒアリングの現場で「提案」をし、信頼を得て、分からないことは素直にどんどん聞く。
この現場への「提案」がとても大事だ、相手にとって何か改善につながる提案ができなければ日々直面している困りごとを、簡単に共有してくれるわけはない。生々しい情報を得るためには相手の役に立つ何らかしらのスキルが自分にあることが前提となる。
猪突(ちょとつ)猛進に現場に入り込んでいる姿は、クールな思考法を示す1冊目とは正反対の中身だと思われるかもしれないが、実は情報を分析する思考法の部分は、共通点も多い。
関氏はまとめの分析をする際に、①外れ値に注目すること②単純な図形でモデル化すること――を推奨している。安宅氏も仮説を考える際にいくつかの方法論を紹介しているが、①極端な事例を考えてみること②視覚化すること――が含まれている。
現場情報に深く触れながら、ぐっと抽象度を上げて「問い」を作り、分析結果を示していく際の思考法は、コンサルタントも学者も結局似ている。まずは文章で書き下すと良いし、元となる分析は図形やグラフなどで視覚的に表せることが多い。
「現場を走りつつ問いを作る」を何度もこなす
さて、1冊目の著者の安宅氏は、仕事量で勝負する姿勢を「犬の道」として否定している。現場に足を運ぶことは仕事量にモノをいわせる姿勢に見えるかもしれないが、おそらくそうではない(繰り返しだが安宅氏も現場に行く重要性を説いている)。
現場を走りつつ、「新たな知識が身についたら『問い』を作ってみる」という作業を、何度もこなすことで、質の高い問いを効率的に作れるはずだ。
どうやら部下を無目的に酷使して2次データをたくさん集めても意味がなさそうである。まずあなたが、現場に足を運ばなくてはならないようだが、現場の信頼を得られるであろうか?
