本気のプロチームを組織 リノベに生きたラグビー思考
リノベる社長 山下智弘氏(下)
キャリアの原点02年、設計から施工までをオーダーメードで請け負う個人事務所を作り独立した。ラグビーの先輩などのツテを頼り、仕事を気に入ってもらったら「3人知り合いを紹介して」と頼んで少しずつ仕事を増やした。1人では仕事が回らなくなった04年に法人化。案件は順調に伸びていったが、やればやるほど自分の思い描いた理想から遠ざかっていることに気づいた。
オーダーメードと規格品の真ん中に可能性
「個性的でとがったデザインはある一部の人には深く刺さりますが、それだけでは多くの人にリノベーションの良さを知ってもらうのは難しい。一方で、みんなに刺さるものをと考えると、没個性になってしまい、結局、新築の後追いになってしまう。矛盾を感じる中で、ピンときたのが『セレクトショップ』という考え方でした。アパレルの世界も、以前は上から下までデザイナーに作ってもらうか、量販店で買うかの2択の時代をへて、そのどちらでもない『セレクトショップ』という業態が生まれました。リノベーションもオーダーメードだけでは多くの人の手には届かない。かといってつるしのスーツのように画一的なものだけでもダメで、その真ん中にあるサービスに可能性があると考えました」

「自分が何屋でもないからだ」。セレクトショップ型の事業モデルを思いついた理由を山下社長はそんな風に語る
中古物件を買ってリノベーションする場合、不動産業者を通じて物件を決め、住宅ローンの申し込みをし、審査が通ったら設計会社を選びデザインを決め、工務店と契約するという複雑なプロセスが必要だ。窓口が多岐にわたるため、個人が一つ一つこなしていくには相当な根気と専門知識が必要だ。そういう従来の方式が「フルオーダー」だとすると、「セレクトショップ」型のリノベるの場合、窓口は一つだ。同社がさまざまな分野のプロとパートナー契約を結んでいるため、顧客は幅広い選択肢の中から希望にあった物件、デザイナー、ローンを気軽に選び、カスタマイズができる。
このビジネスモデルを思いついたのは、「自分が何屋でもないからだ」と山下氏は言う。
「リノベーションの業界は『不動産系』か『建築デザイン系』かに別れますが、僕はどちらでもありません。学生時代のバイトでも、建設現場の現場監督だったときも、全体を見渡しながら人を適材適所でうまく動かす『オーケストレーション』が得意だったので、各分野のプロをうまい具合につなげていくアイデアが浮かびました。それと、会社のホームページを自作するなどテクノロジー系のことも好きだったので、テクノロジーを活用しながら仕組み化しようと。『勝ち筋』が見えたと思いました」
そこで東京進出を決心する。だが『一緒に東京に行きたい奴はいるか?』と社内を見渡しても、誰も手をあげてくれず、2010年単身で東京に乗り込んだ。当時の年間取扱件数は10件程度。だが13年にテレビの特集で取り上げられて認知度が上がり、さらにサステナブル(持続可能性)やリサイクルに対する意識の高まりも追い風となって、リノベーションブームが起きる。
「特に東京近辺は海外生活の経験者が多い。以前のように『新築が買えないから中古を』ではなく、積極的に中古を選び、自分のライフスタイルにあった形にリノベーションするという考え方がより一般化している」と山下氏。現在、手がけるリノベ案件は年間約600件。累計の施工実績は、請負型ワンストップリノベーションの分野では国内ナンバーワンだ。個人宅のリノベだけでなく、遊休不動産の一棟リノベーションなど法人向けの「都市創造事業」も好調だ。