人的資本経営、どう取り組む 背景や測定基準を詳述
八重洲ブックセンター本店
ビジネス書・今週の平台指針や測定基準を細かく示す
人的基本経営の本質をつかむ上で、人事改革の流れや昨今のSDGsなど地球規模の倫理的要請から「今なぜ人的資本経営か」を解説した1章が大いに参考になる。こうしたグローバルな流れを把握した上で人的資本開示の世界の潮流を見ていくのが第2章。国際規格「ISO 30414」や米国の開示法案、日本政府は22年8月に示した19項目の開示指針などが細かく解説される。
3章ではISO 30414の認証を取得した日本企業、リンクアンドモチベーションの取得活動の事例などを含め、どんなデータが求められ、どのように報告書にまとめるかが細かく示される。リンクアンドモチベーションの取得活動には著者の岩本氏自身がコンサルタントとして参加していることもあり、何を押さえるべきかを端的に指摘していて興味深い。
日本の先進企業の取り組みを紹介した第5章も示唆に富む。味の素、エーザイ、双日、日立製作所など、業種も異なる10の企業が登場し、統合報告書の記述などをもとに人的資本経営の今が点描されていく。
開示に関連して強く推奨されているのが「ナラティブ」という概念だ。物語を意味する言葉だが、ここでは一方的に語るストーリーに対峙して「聞く相手が腹落ちする物語」と定義される。これからの企業は未来に向けた終わりのない物語をステークホルダーが納得性を持って腹落ちするように語る「語り部」となる必要があると説く。ナラティブをもって従業員や市場、投資家と対話することこそ人的資本開示の肝心なところというのが著者たちの見方だ。
「今日的な課題感に応えた本だが、やや専門的な内容。うちらしい売れ筋といえるかも」と同店でビジネス書を担当する川原敏治さんは話す。ビジネス書についても一般的なベストセラーから隠れたロングセラー、希少な専門書まで豊富な品ぞろえがこの書店の持ち味だったといえそうだ。
『キーエンス解剖』が1位
それでは、先週のランキングを見ていこう。
1位は『キーエンス解剖』。1月に同書店を訪れたとき、「キーエンスの強さの秘密に迫る 仕組みと風土を解剖」の記事で紹介した。そのときは4位だったので順位は上昇している。2位の『「会社四季報」業界地図 2023年版』は定番の業界研究ムックだ。3位の『Chatter(チャッター)』は「頭の中のひとりごと」をコントロールして力を発揮する方法を説く。これとは正反対のタイトルの『「静かな人」の戦略書』が4位に入った。5位は数字で考えることを徹底する思考法を説いた『数値化の鬼』。22年3月刊と刊行から1年近くたつが、ほぼ途切れずランキング上位に入っており、息の長い売れ筋になっている。今回紹介した人的資本経営の解説書は11位だった。
(水柿武志)