コロナ禍で医師は何を考えた 外科医が伝える本当の姿
『それでも君は医者になるのか』より
ブックコラム多くの医師が「過労死ライン」
患者の命を預かる医療の現場では、長年、医師の過重労働が問題になってきた。厚生労働省の「平成30年版過労死等防止対策白書」によると、時間外労働が月80時間を超える医師のいる病院は全体の20.4%に達している。月平均の時間外労働が80時間というのは「過労死ライン」であり、いかに過重労働の医師が多いかが分かる。
当然、医師の長時間労働を改善する動きが進められてきたが、働き方改革関連法の議論のさなか、「医師の働き方」への適用は2024年まで延期することが決められた。すぐに適用すると、医師不足の地方などでは医療が崩壊する恐れがあるからだ。
こうした現状に対し、中山氏は医療現場の古い慣習を打破することを提案する。具体的には、1人の患者に対して1人の主治医が責任を負う従来のやり方ではなく、「複数主治医制」を導入したり、医師以外の人が行える業務はほかの職種の人に任せたり、といったことで効率化を図れるというのだ。
医師に幸福感をもたらすもの
過重労働の問題は一朝一夕では解決しないかもしれないが、それでもなお、「医者になってからの幸福は苦労を十分に補って余りある」と中山氏は主張する。
その理由の一つは、医師が経済的に恵まれていること。給料が高いだけでなく、それ以上に「安定」があるという。「たとえ病院が潰れても、医者が失業して困るということはまずない」というわけだ。
そして、「困っている人に直接会って、解決する」という仕事の内容そのものが、医師に幸福感をもたらすという。誰かのために役立っていることを直接実感できるのが医師という職業の特徴であり、「医者をやっていると、道端で倒れている人を救い出す、そんなヒーローのような気分を毎日味わえるのです」と中山氏は述べている。
本書によって、医師や医療の現場のイメージが覆される読者もいるかもしれない。だが、中山氏の説く「今、医師として働く意義」については、胸を打たれるものが多い。これから医師を目指す若者へのエールにあふれた一冊だ。
(日経Gooday 竹内靖朗)
1980年生まれ。聖光学院高等学校を卒業後、2浪を経て、鹿児島大学医学部医学科を卒業。都立駒込病院外科初期・後期研修医を修了後、同院大腸外科医師として計10年勤務。2017年2~3月は福島県広野町の高野病院院長、その後、郡山市の総合南東北病院で外科医長。現在、神奈川県茅ヶ崎の湘南東部総合病院外科に勤務。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)など。ドラマ化された小説『泣くな研修医』(幻冬舎文庫)シリーズは38万部を超えるヒットに。