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政府が支援の拡充を本格的に打ち出すなど、ビジネスパーソンや企業が取り組みを迫られている「リスキリング」。一般的には「学び直し」という日本語に言い換えることが多く、日本経済新聞の記事でも「リスキリング(学び直し)」と表記している。

一方で「リカレント教育」「アンラーニング」「スキルアップ」など、類似した言葉もキャリア構築や人材開発の文脈ではよく使われている。

これらの言葉とリスキリングにはどんな違いがあるのだろうか。それぞれの意味や目的、企業やビジネスパーソンにとってのメリットなどについてまとめた。

リスキリングとリカレント教育の違い

リスキリングとリカレント教育にはどのような違いがあるのだろうか。

リスキリングは「業務で必要とする新たな知識やスキルを学ぶこと」

現在さまざまな場面で使われているリスキリングは「企業・組織内のビジネスパーソンが業務で必要とする新たな知識やスキルを学び直すこと」と概ね定義できる。

リクルートワークス研究所がとりまとめた報告書によると、英語でリスキリング(Reskilling)は「職業能力の再開発、再教育」を意味するが、最近は企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略に伴い新たに生まれたデジタルに関するスキル習得や再教育を指すことが多いとされる。

いま巷間で取りざたされるリスキリングはDXに伴い生じたデジタル人材育成のための学び直しともいえるだろう。

急速に広がるリスキリング支援

日本国内の少子高齢化に加え、データサイエンスや生成AIなど新たなテクノロジーの台頭によるデジタル人材の不足を見越し、政府もデジタル分野における人への投資の一環として、リスキリング支援に本腰を入れ始めた。

日本経済新聞:デジタル人材、大学・高専で11万人上積み 政府 「230万人不足」に備え

リスキリングは政府の労働市場改革の柱に

政府が閣議決定した経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)でも、目玉に据えた三位一体の労働市場改革の柱の一つとしてリスキリングを掲げている。

日本経済新聞:転職促進へ税制見直し 解雇規制緩和触れず 骨太方針
日本経済新聞:労働市場改革 成長産業へ人材移動促す

リカレント教育は「社会人が仕事に必要な教育を受けて仕事に戻る営み」

リスキリングによく似た言葉として捉えられる「リカレント教育」は、学校教育を終えた社会人が個々人のタイミングで仕事に必要な知識やスキルを得るために再び大学などの教育機関で学んだのちに仕事に復帰するケースを差す場合が多い。

「リカレント(recurrent)」は英語で「繰り返し」や「循環」を意味しており、教育と仕事を繰り返し行き来する様子がリカレント教育という言葉の由来となっている。

世界ではリカレント教育は休職・退職が前提だが日本は少し異なる

リカレント教育では、教育機関で学び直す間は休職・退職などで仕事から離れ、学び直しを終えたのちに再び仕事に就くことが世界では一般的だ。しかし、日本の場合は休職・退職を伴わない場合も多く、仕事で必要な知識やスキルを学び直すという意味においては、リスキリングとリカレント教育に大きな違いはない。

リスキリングとリカレント教育は"学び直しを求める主体"が違う

ただ、厳密にいえば"学び直しを求める主体"についてはリスキリングとリカレント教育で大きな違いがある。

リスキリングはDX戦略などに基づく人材開発の一環として企業や組織が主体となり、自社内や組織内のビジネスパーソンに学び直しを求める形が一般的だ。企業や組織のDX戦略担当や人材開発担当が実際に青写真を描いて学び直しの仕組み自体を構築し、主導していくことになる。

一方、リカレント教育は仕事におけるスキルアップを念頭に個々人の営みとして行うものとされており、学びを求める主体はあくまで個人だ。キャリアプランを念頭に自分自身で学び直しの内容を選択することになるだろう。

リスキリングとリカレント教育、それぞれの利点

リスキリングとリカレント教育にはそれぞれどのような利点があるのだろうか。

リスキリングは「企業と個人の生き残り」につながる

前述したリクルートワークス研究所の報告書では、リスキリングの利点について「DX時代に、企業と個人の双方が生き残るための重要戦略」と提起している。

リスキリングを主導する企業や組織にとっては、DX戦略の実現に必要な人材を社内で確保することで新たな価値の創造や事業の拡大に結びつけることができる重要な取り組みと位置付けることができる

企業や組織の要請に応じてリスキリングを実践したビジネスパーソンにとっては、学び直しを通じて時代が求めるスキルを身につけることで自身の成長や待遇の向上、転職市場における価値向上につながる可能性が高まる。

企業・個人ともに「時代の変化に対応し成長できること」が、リスキリングの大きな利点と言えそうだ。

リカレント教育の恩恵は基本的に個人に

一方、リカレント教育はあくまで個人が主体となり、自身の仕事につながる新たな知識やスキルを身につけるために学び直しをする営みだ。従ってその恩恵は基本的に個人が受けることとなる。

もちろん個々人の成長は社会や経済の成長にも波及するが、リカレント教育によって直接的に期待できる利点という意味では、個人の成長や仕事における生産性の向上、キャリアアップなどがメインとなるだろう。

リスキリングとスキルアップの違いは

リスキリングとスキルアップ、この二つの言葉には違いがどんな違いがあるのだろうか。

リスキリングは新しい能力を身につけ、スキルアップは既存の能力を高める

リスキリングと、能力向上を実現することを意味する「スキルアップ」は、学びの内容の面で微妙に差異があるとされている。

企業・組織の求めに応じてビジネスパーソンが実践する、デジタル時代を生き抜くための全く新たな知識の学び直しや能力の再開発であるリスキリングに対し、スキルアップは既存の業務や能力の延長線上で個々人の能力をさらに向上させる取り組みというニュアンスが強い。

リスキリングとアンラーニング(アンラーン)との違い

アンラーニングは「知識・スキルの仕分けと入れ替え」

アンラーニング(アンラーン)は英語で「忘れる、念頭から払う」という意味を持つ言葉で、「既存の知識・スキルを仕分けて新たなものと入れ替える」「新たな知識・スキルを取り込むために使わなくなったものをあえて捨てる」といった意味合いを持つ。

リスキリングは"新しく学ぶ"、アンラーニングは"古いものを捨てる"

リスキリングは新しい知識やスキルを学ぶ方に主眼があるが、アンラーニングは既存の知識・スキルの仕分けや入れ替えに眼差しが向けられていることが特徴だ。

リスキリングの過程で既存の知識を仕分けて新たな知識を取り入れる場面が生じる可能性もある。いずれの言葉も相互に関連しているといえる。

すべての学びは企業やビジネスパーソンにとって大きな価値になる

リスキリングとリカレント教育・スキルアップ・アンラーニングといった学びに関わる言葉の違いを解説してきたが、どの学びも企業やビジネスパーソンにとって大きな価値を生み出すことは間違いない。さまざまな学びの違いを踏まえ、それぞれの立場や局面に応じてどのような手法が望ましいのかを丁寧に検討していくことが重要と言える。

(ライター 日影耕造)

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