「入社して3年は頑張れ」「逃げていい」 正しいのは?
20代のおしごと相談室塩野 そうなんですよ。お客さんは「あなたの圧倒的な成長」に関係ないんですよね。
フィクションのススメ
塩野 Dさんのお話でもう1つ気になったのは「100%コミットしないと満足できない」という部分。これはちょっと変えられた方がいいと思います。これからは色々なコミュニティに属していくことが大切なので。
大室 ある有名な経営者の方が、海外のドミトリー(相部屋の格安宿泊施設)に宿泊するとタオル巻いたイケメンのバックパッカーみたいな人がたくさんいて、男として絶対勝てないと思った、と話していたんですよね。「それとこれとは別」っていうことを一番簡単に味わえるのが家庭ですけど、例えば趣味のサークルではあんまり上手じゃないと思われているとか、自分を相対化できる場所が必要です。それがないまま偉くなると、相手が少し遅刻したら「俺の時給いくらか知ってる?」と言っちゃう人もいて……。

産業医の大室正志さん。産業医科大学産業医実務研修センター、ジョンソン・エンド・ジョンソン統括産業医や医療法人社団同友会の産業保健部門を経て、独立。現在、大企業からベンチャー、外資、独立行政法人まで30社以上の産業医を担当。著書に『産業医が見る過労自殺企業の内側』(集英社新書)など。
塩野 そういう方が忘れがちなのが、仕事もスキルも誰かとのパートナーシップも、どれもこれも幸せになるためにやっているはず。そのプロセスで不幸になってどうすんの、と思いますね。
大室 最近は欲望が多様化していますから、自分にとっての幸せがわかんないという方も結構いますね。
塩野 自分にとっての幸せがわかったとしたら、最高のスキルかもしれない。あと最近感じる傾向が、流行のビジネス本しか読んでない人が多いんですよね。ドラマや小説などフィクションに関心がない。でも世の中、人間って物語でできている。むしろストーリーを語る方が、今はビジネス的にも求められています。
大室 私もフィクションは好きで、友人と3人で映画部を作ってまして。月1回、絶対自分じゃ選択しないものを見に行こうということをやっているんです。先日は「すみっこぐらし2」をおじさん3人で、横浜で待ち合わせして行きましたね(笑)。ネットフリックスなどは自分の好みに最適化されてしまって、私はちょっと油断すると全部ピカレスクロマン(悪漢が主役の作品)とかになるから。
塩野 映像作品だといま良質なドキュメンタリー作品も増えています。本読むのはめんどくさいっていう人は、ドキュメンタリーで他人の物語を追体験していくのもお薦めです。
(文・構成 安田亜紀代)