読書離れに挑む東大生ベンチャー 筑駒の先生がヒント
Yondemy 代表取締役・東京大学経済学部4年 笹沼颯太さん
チャレンジャー授業の終わりには友だちが読んでいる本やその感想を聞ける「共有の時間」が設けられていた。笹沼さんは「単に自分で読んで終わりではなく、友だちと話をすることで『あの作家については誰々が詳しそう』とか、『今度はあの友だちと同じ本を読んでみよう』と興味が広がっていった。あの授業がヨンデミーのサービスの原型になっている」と振り返る。

創業1周年でメンバーと。後列右端が笹沼さん、その手前が鈴木さん=ヨンデミー提供
もう1つヒントになったのは、大学受験専門塾SEG(エスイージー、東京・新宿)が運営する英語の多読塾での経験だ。通い始めた中3当時は単語の暗記が嫌いで、成績は下から数えて5番に入るほど苦手だった。ところが友人が通っていたSEGでは単語の暗記は不要と聞き、入塾。そこでは、絵本から始めて少しずつ長い本に慣れていくという、英語圏の子どもが言葉を習得していくのと同じ手法がとられていた。高校生になると笹沼さんは通学の電車で欧米のベストセラー本をむさぼり読むまでに上達した。
「多読を通じて知ったのは、楽しんでスラスラ読めるレベルのものをたくさん読むことがすごく大事だということ。量を読めると余裕が出てくるので、もともと好きだったジャンル以外のものや難しいものにもチャレンジできるようになる。それは澤田先生のリーディングワークショップの考え方とも共通していました」
結局、SEGには高3まで通い続け、東大入試直前に受けた英語検定試験「TOEIC」では990点満点中970点をマーク。そのSEGに誘ってくれた同級生が、のちにヨンデミーを共に創業することになる岩田貴洋さんだ。
文系3人で「AI司書」開発スタート
東大入学後は岩田さんと共にSEGの講師になった。かつての自分のように英語が苦手な生徒が、どんどん実力をつけていくことにやりがいを感じた。しかし徐々に、もどかしい思いも抱くようになる。1人の講師が1回の対面授業で教えられるのは最大12人。週5回授業をしたとしても60人が限界。時を同じくして家庭教師を始め、前述のように子供の読書について悩む親が少なくないことを知った。
ちょうどその頃、筑駒の同級生同士でビジネスコンテストに応募する話が持ち上がる。アイデアを出し合う中で、リーディングワークショップやSEGの授業で自分たちが体験したことをテクノロジーを使って再現する「読書教育」という構想がまとまった。結局コンテストには落選したものの、より多くの子どもたちに読書教育を届けたいという思いが高まり、岩田さんと、同じくSEG仲間だった鈴木健一郎さんの3人で2020年4月、ヨンデミーを創業した。
しかし聞けば3人とも文系だという。「AI司書」はどうやって開発したのか。