変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック

思わぬ助っ人も現れた。いとこの結婚式で会った遠い親戚の叔父さんだ。ほとんど面識はなかったが、小さな商社を経営しており、自身も創業当初、経済的に苦しかった頃、井上氏の両親の家に泊めてもらった恩返しだと言って、横浜市内の7畳の部屋を事務所用に無料で貸してくれた。

「リクルート時代に知り合った不動産会社10社が、立ち上がったばかりのサイトに物件情報を掲載してくれたのもありがたかった。そして96年1月に、そのうちの1社から電話がかかってきて『井上くん、7500万円の湘南の一戸建てが売れたよ』と。買い主は当時アメリカに駐在していた方で、日本に戻る前に家を探していたそうで、時間や場所を軽々と超えられるインターネットの力ってすごい。これは行けると思いました」

その後、システムの完成度も高まり97年には、「ネクスト」の名称で株式会社化。ただ、経営が軌道に乗るまでにはさらに5年近くを要した。資金ショートしそうになったこともある。「でもね、私、本当にツイているんです」と笑う井上氏は、こんなエピソードも明かす。

創業から2年で「ネクスト」の名称で株式会社化。経営が軌道に乗るにはなお時間がかかった

創業から2年で「ネクスト」の名称で株式会社化。経営が軌道に乗るにはなお時間がかかった

ある日ひとり行きつけのバーで飲みながら資金繰りについて頭を悩ませていると、リクルート時代の先輩がふらりと姿を見せた。世間話をする中で、「60万円がどうしても足りなくて」とこぼすと、100万円を無担保で貸してくれることになった。まるでドラマのような展開だが、井上氏がリクルートを辞める際に営業を引き継いだその先輩は、売り上げを半減させてしまい、井上氏の営業の秘密を探ろうとしていたことがあった。その際、クライアントが井上氏に寄せていた信頼の厚さを知り、信用することにしたのだという。

大手がつぶしたくてもつぶせない戦略

資金繰り以外で手ごわかったのは、大手の攻勢だった。古巣のリクルートやアットホームもHOME'Sと似たような不動産ポータルサイトを始めていた。そこで「大手がつぶしたくてもつぶせない戦略」を取った。会員企業である不動産会社からの物件掲載料を、大手では採算が合わない「載せ放題で月額1万5千円」という破格の水準に設定。さらに大手が強い大都市ではなく、インターネットに不慣れな地方の不動産業者を地道に開拓し、会員をじわじわ増やしていった。検索エンジンでサイトを見つけやすくする「検索エンジン最適化(SEO)」対策もまだその言葉がない頃から始めた。それらが功を奏し、ようやく2002年ごろからは毎年160%という勢いで成長し始めた。

「実は04年ごろに、我々ネクストという会社は要注意だとリクルート上層部に進言していた人物がいたんです。だけど耳を貸す人はいなかったようです。その進言した張本人が、のちに起業して作ったのが不動産管理システムの『レンターズ』で、その後LIFULLの子会社になりました。人生って面白いですね」

そう語る井上氏に、忠告を無視してくれたリクルートの人には感謝してるかと問うと、大きくうなずきながら、こう続けた。

「反面教師にしています。今、私はイケてるベンチャーの話を聞いたら、自分から率先して会いに行くようにしているんです」

06年、東証マザーズに上場して以降の軌跡については後編で。働きがいのある会社ランキングの常連となっているその組織づくりについても紹介する。

(ライター 石臥薫子)

新着記事

Follow Us
日経転職版日経ビジネススクールOFFICE PASSexcedo日経TEST

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック