変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック

「直感」を分解し、言語化する

今回ご紹介した「レーティング」の導入においても、カギとなったのはビジネスパーソンと経済学者のパートナーシップです。

ビジネスの現場に届く「依頼者の声」を、どのように吸い上げるのか。そのためのアンケート項目づくりは、非常に根気のいる作業でした。特に、本件では依頼者は初めて不動産取引をする人たちが大半です。客観的なサービスとして活用するために、現場担当者も交えて議論を進めました。そして、依頼者が求めるスキルを「言語化」する。この企業では、経営層から現場の担当者まで、一丸となって「言語化」に取り組んでいただきました。

ここには、もう一つ大きな課題がありました。依頼者の大半が評価基準を持っていませんでした。当然ですよね。初めての不動産取引で、説明を1時間する、その説明を短いと感じる人もいれば長いと感じる人もいました。基準として、一般的には30分程度とあれば多くの人は長いと感じたでしょう。よって、数少ない不動産取引経験のある関係者と不動産取引経験がない依頼者のアンケート結果を分けました。そして、各人の1票の重みを変えるという技術を加え、評価の安定性を高めていきました。

こうした泥臭い作業が、経済学のビジネス活用には不可欠であり、またこのサービスの根幹となっています。現場からの的確なバトンパスによって、その後、経済学の専門領域の1つである社会的選択理論の活用が可能となったのです。

「経済学」をビジネスの羅針盤として使う

今回の経済学のビジネス実装で、私自身が感じたことが大きく2つあります。

まず1つ目は、この企業の経営者は、「経済学」を自分たちの事業と照らし合わせながら学んでいるということです。それによって、一見つながっていないEAJのサービスの課題と社会的選択理論の研究を結び付けることができました。

おそらく、自社の課題と真剣に向き合っていなかったり、自社課題に経済学を使おうという意欲がなかったりすれば、意見集約をする研究が自社の課題解決と近いことへの理解はできなかったでしょう。サービスを利用した各依頼者は、当然、利用後の感想を持っていること。それを投票してもらって、意見を適切に集約することで新しい評価軸が生まれること。そうした気づきは、自社課題と経済学との掛け合わせに真剣に取り組むことで、初めて見えてくるものでしょう。あとは、学問からの知恵を得ながら、業界の商慣習・顧客層の特性に合わせた調整を行っていくことで、意見の集約をうまく機能させていけばいいのです。

これからのビジネス成長の中では、学びを自らの事業と照らし合わせて貪欲に考えていくことが今まで以上に重要になってきていると痛感しました。

2つ目は、ビジネスパーソンは「経済学」を浅くてもよいので広く学ぶと活用方法が見えてくる可能性があるということです。このケースでいうと、EAJの経営陣が、ワークショップで意見集約に関連する研究に触れたことがターニングポイントとなりました。ビジネスでの実装を意識して「経済学」に触れることで、新しい可能性が見えてくる。他の研究分野でも同様のことができる可能性を感じた瞬間でもありました。

自社ビジネスをきっちり分解し、どういう構成要素をきっちり把握し、そこに「経済学」というプロダクトを使って大まかに見てみるとなんとなくその方向に進むためのツールが浮かび上がってくるというわけです。そうなれば、その研究をいかに活用するかという話になるわけです。

新着記事

Follow Us
日経転職版日経ビジネススクールOFFICE PASSexcedo日経TEST

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック