伊藤忠はなぜ強いのか? 歴史とエピソードからひもとく
リブロ汐留シオサイト店
ビジネス書・今週の平台「商いとは」「商社とは」を考える
全16章にプロローグとエピローグがつく。1章から7章までは明治期の創業から石油ショックまでの100年の歴史が描かれる。初代忠兵衛、2代目忠兵衛までの戦前期、越後正一、瀬島龍三が活躍する高度成長期……そのいずれの局面でも考えさせられるのは商いと何か、商社とは何かということである。
岡藤氏の入社から始まる第8章以降もその問いが変わることはない。岡藤氏は伊藤忠パーソンがやるべきことは「マーケットインとイニシアチブだ」と言っているという。著者はこう解説する。「消費者の立場になってイノベーションを考えることがマーケットインであり、イニシアチブを握れば独占に近い立場となり、肥沃(ひよく)な市場の創成者になることができる」
岡藤氏が常に口にしてた「か・け・ふ(稼ぐ・削る・防ぐ)」の合言葉がどのように企業成長に結実していったかも具体的な経営施策とのつながりでストーリーの中に織り込まれ、伊藤忠、ひいては商社、さらには日本経済の展望も示される。
石油ショックやバブル期を経て商社のビジネスは交易から事業投資へと大きく変わった。それゆえに広範なビジネス領域との関わりが深くなった。繊維、資源、生活関連ビジネス、IT……その広がりを視野に収め、強さを発揮する伊藤忠の経営物語からは、ビジネスパーソンなら、さまざまな示唆を受けることができそうだ。「12月の刊行だが、先週も売れて上位に入った」と店舗リーダーの河又美予さんは話す。
1位はJR東海・葛西氏扱うノンフィクション
それでは先週のランキングを見ていこう。
1位の『国商 最後のフィクサー葛西敬之』もノンフィクション作家の作品。国鉄改革を主導し、JR東海のトップとして政財界に大きな影響力を持った人物の軌跡を追う。同数の2位に4冊。そのうちの1冊が今回紹介した『伊藤忠』だ。ほかの3冊は、有名フレンチシェフの自伝『三流シェフ』、最新のマーケティング動向を49のキーワードで解説するムック『最新マーケティングの教科書 2023』、定番の業界研究ムックの最新版『「会社四季報」業界地図 2023年版』だった。
(水柿武志)