ホリエモンに迫られロケット決意 東工大で鳥人めざす
稲川貴大・インターステラテクノロジズ社長(下)
リーダーの母校13年4月、ISTに社員第一号として入社した。翌年に社長交代の話があり、当時4人いた社員の中で自ら手を挙げた。小型観測ロボット「MOMO(モモ)」初号機は17年、無事打ち上がったものの宇宙空間には到達せず、2号機もエンジンの誤作動で地上に落下。19年に成功するまで、何度も悔しい思いをした。
苦しかったのは、打ち上げ失敗はもちろんですが、それ以前に技術もチームビルディングも資金調達もあらゆる面でゼロから1を作っていかなくてはならないことでした。でも振り返ると、浦高の工芸部の時からずっと「家具を作りたい」「飛行機を作りたい」「ロケットを作りたい」という夢の実現のために、何も知らないところから知識や技術を試行錯誤しながら身につけてきました。リソースやメンバーは変わっても、やっていることは同じだなとつくづく思います。

MOMO3号機成功の祝賀会(前列中央が稲川社長)
若くして社長という立場になりましたが、大学時代に鳥人間コンテストやロケットサークルで何十人というチームをまとめた経験が役に立っていると思います。僕の根っこにあるのはモノ作りが好きという思いですが、リーダーとして組織をまとめるのも、案外好きなのかもしれません。いま従業員は60人くらいになっています。
チームづくりで心掛けているのは短期・中期・長期でしっかりと目標設定をすること。特に長期は単なる目標にとどまらない「野望」を掲げることです。やっぱり自分やメンバー、さらにその周囲の人や社会から応援してもらえるターゲットを設定していくことが、みんながハッピーになるためには重要だと思います。人は目の前の目標だけではついてきてくれないし、長期的な話だけの空想家になってしまってもダメなので、そのバランスが大事ですね。
現時点での短期の目標はこれまでのMOMOより一回り大きく、100キログラム以下の超小型人工衛星を地球周回軌道に乗せることができる「ZERO(ゼロ)」の開発を成功させることです。うまくいけば日本のロケット開発の歴史を変えることになるでしょう。長期の野望は、宇宙を身近にすることです。宇宙はどこか神聖なもの、手が届かないものと思われてきましたが、そんなことはない。自分たちのこの手で作ることのできる機械で、飛んで行くことができるのだということを証明したい。宇宙を民主化し、身近でアクセス可能な「現実」へと変えていきたいと思っています。
(ライター 石臥薫子)