東大現役合格3人に1人、聖光学院が開成に並んだ訳
ニューススクール開かれた職員室と教え合う自習室、塾は不要

「カルチェ・ラタン」と呼ぶ生徒が自由に集えるユニークな部屋もある
聖光では中高6年間を3段階に分けて教育に当たっている。中1~2年で学ぶ姿勢を身につけ、中だるみする中3~高1に興味のある活動を通じて自立性を養う。「何をやってもいいので、結果が出れば自信がつく。そこが大事だ」と工藤校長は強調する。最後に高2~高3で学業重視に切り替え、希望する大学など目標を掲げ、受験モードに突入するわけだ。中高6年間を有効に使った結果、現役の進学率は8割を突破した。
進学実績が上昇しているのは、教員全体の質が向上し、生徒とのコミュニケーションが深化しているのも一因だ。工藤校長は「通常の学校の場合、職員室で担当以外の教員に質問しづらい雰囲気がある。しかし、聖光では担当教員以外の教員に自由に質問に来る生徒が増えている。人間同士なので相性もある。各担当の教員もそんな生徒の態度を許容している。結果、教員と生徒の対話がより濃密になっている」と話す。確かに職員室はガラス張りで、外から入りやすく、明るくて広い。各教員の机も大きく、空間に余裕がある。
もう一つ、聖光の自慢の空間がある。受験生用の立派な自習室の存在だ。朝7時から夜9時、土日、祝日を含めて、セミナーハウス「ザビエルセンター」を自習室として開放。校内には食堂もあるので、1日中勉強に集中できる。そこで毎日100人あまりの高3が学習し、仲間同士で「教え合い」もやっている。米国の教育研究機関でも、生徒同士で教え合うことが最も効果的な学習法だと言われている。
図書室内には全生徒が自由に使える「カルチェ・ラタン」と呼ぶユニークな部屋がある。独特なデザインを施した一室。自習をしたり、物思いにふけったり、リラックスできる空間でもある。
東大や医学部を目指す受験生が集う「鉄緑会」など著名な進学塾はいずれも東京都心に立地している。その点では横浜市にある聖光は不利。しかし、優秀な教師がいる開放的な職員室、そしてこの自習室の存在が現役合格力を高めている面もあるだろう。「塾要らずの聖光」と呼ばれるゆえんだ。
1954年に誕生した聖光。ハード、ソフト両面から学校づくりを支えてきた個性豊かなOBが少なくない。オイシックス・ラ・大地社長の高島宏平氏など起業家も輩出しているが、やはり代表格はオフコース(1989年に解散)だろう。この快適で美しい新校舎の設計に携わったのは元オフコースで、建築家の地主道夫さんだ。そしてボーカルの小田和正さんは、2014年の新校舎竣工記念にコンサートを開催、伸びやかな高音ボイスの歌声が校内に響きわたった。
ここでバンド活動を始めた小田さんも、東北大学、早稲田大学の大学院で建築を学んだ。もう1人の有力メンバーだった鈴木康博さんは東京工業大学に進学した。いずれのメンバーも学業とバンド活動を両立させた。聖光からは多彩な人材が次々飛び出しているのだ。
(代慶達也)