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コーチングと傾聴、サイバー時代に学ぶ

自身が子どもたちと向き合う際、サイバーエージェント時代の経験も期せずして役立った。

「子会社の役員をやっていた時に、事業を大きく転換することになり、社員からものすごく反発されたことがあったんです。特に女性8人から呼び出されて、僕の嫌なところ、ダメなところを2時間くらい責め立てられたのがこたえました。その時、サイバー本社の役員に勧められて、コーチングを勉強し、傾聴のスキルを身につけたんです。社員の雑談に耳を澄まして、一人ひとり何が好きなのかを把握し、Aさんがある映画に興味があると知れば週末に僕も見に行って、さりげなく『僕も見ましたよ』と言って感想を語り合うようなこともしていました。今、Branchが大切にしている、子どもたちの話を絶対に否定せず、終わりまで聞くとか、その子の好きなものにとことん付き合うといったことの基本は、サイバー時代に学んでいたんです」

Branchのスタートから6年。「ニッチなサービスなので、爆発的にユーザーが増えることはない」というが、ユーザー数はじわじわと増え、事業もようやく軌道に乗ってきた。ユーザーアンケートでは、自傷行為を「全くしない」という回答がサービス利用前後で5割から8割に増えたり、「何かに挑戦したい」という発言が2割以上増えたりといった結果も出ている。何よりうれしいのは、ユーザーの親子から直接聞く声だ。

「ここに来る前は『死にたい』と毎日言っていたのに、その言葉を聞かなくなったとか、外に出かけられるようになったとか。他にも、ずっと否定され続けてきたので、自分が『すごい』と思われないと誰にも認めてもらえないと思い込み、自分のことを盛って話してしまうお子さんがいたのですが、Branchに来て2年くらいたった時、彼は『僕、最近、もうウソをつかなくなったでしょ』と言ったんです。ありのままの自分でも大丈夫だとわかったんでしょう。そういう変化を間近で見られることが、本当にうれしい」

オンラインコミュニティーも明るい雰囲気

コロナ禍で対面のやりとりが難しくなり、急きょ始めたオンラインコミュニティーも、今ではサービスの核になった。とりわけ保護者向けのコミュニティーで、孤立した家庭同士がつながれたことは大きかった。フリースクールの保護者会などでは悩みを話しているうちに、泣き出してしまう人も多いが、Branchは「好きで自信を創り、好きで社会とつながる」というビジョンそのものがポジティブなためか、「コミュニティー自体の雰囲気がすごく明るい」と喜ばれているという。

発達障害の子どもたちは、その特性がいまの社会にマッチせず、生きづらさを感じることも少なくない。だが、中里氏に言わせれば「彼らこそ、AI(人工知能)の進展で従来の職がなくなっていく中で、突出したクリエーティビティーを発揮するようになるはず」。

Branchは現在、小・中学生が対象だが、中里氏は、ゆくゆくは専門学校も作るなどして、子どもたちが就活するまで長く併走できるサービスにしていく計画だ。

(ライター 石臥薫子)

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