マネックスがSTEAM教育 論理的・創造的な思考力養う
マネックスグループ社長 松本大氏(14)
ビジネスの視点「よりよい人生を送れるような考え方」は、人それぞれ定義は違うと思いますが、論理的かつ創造的に物事を考えられる力は、これからを生きる人すべての土台になるでしょう。その力があれば、自分の望む仕事を手に入れ自己実現に近づけるでしょうし、稼ぐ力だって増える。論理的・創造的な思考力があれば、そのお金をうまく使うこともできる。そうすればその人の幸福度も増し、社会も潤う。じゃあ土台を作る教育ってどういうものだろうといろいろ調べる中でSTEAM教育を知り、それを実践する教室を14年から展開してきたViling(ヴィリング、東京・杉並)という会社に出合いました。
「STEAM教育? あれちょっと前までSTEM教育じゃなかったっけ」という方もいるかもしれません。STEMはScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字で、アメリカのオバマ前大統領が演説の中で「ビデオゲームを買ったりアプリをダウンロードしたりするだけじゃなく、自分で作ろう。プログラミングしてみよう。理数・工学系の知識をつけることで子どもたちは自分の可能性を広げられるし、そうした力が国の競争力の源になる」と呼びかけたことで一気に注目され、世界に広まりました。
大事なのはアウトプットする機会
STEM教育というとプログラミングを思い浮かべる方も多いと思いますが、大事なのはプログラミングの「知識」ではなくて、論理的・科学的な考え方を身につけた上で、実際に自分の手を動かして試行錯誤してみることなんですね。そこにArt=Liberal Arts(一般教養)、つまり自由に表現したり発想したりする力を加えたものがSTEAM教育です。
Vilingが展開する「STEMON(ステモン)」という教室では、アウトプット、つまり作りながら学ぶことを非常に大切にしています。同社代表の中村一彰さんは教員免許を持ちながら、ベンチャー企業で人材育成に関わった経験の持ち主で、ゼロから1を生み出すことがいかに難しいかを実感し、「日本の教育に欠けているのはアウトプットする機会、試行錯誤してやってみる機会」だと気づいたそうです。
ですからSTEMONでは、何かを組み立てる際にも子どもたちは手順書を一切見ずに、自分で考え、手を動かします。年中・年長の子たちはブロックから始めて、もう少し大きくなると、滑車を作ってエレベーターを動かしたり、アートの要素も入れてプログラミングで動く絵本を作ったり、いろんなカリキュラムが組まれています。
私は中村さんの話を聞きながら、自分の幼い頃の経験を思い出しました。私は塾や習い事には一切行かず、小学生の頃は学研の『○年の科学』という雑誌を夢中になって読んで、付録のキットで実験や工作をしたり、家の扇風機を分解してまた組み立てたり、そういうことばかりやっていました。今思えばあの頃、自分でワクワクしながら手を動かして、工作や分解を繰り返したことで、物理的・論理的な考え方が身についたのだと思います。
アートについては前回もこのコラムで触れましたが、小さい頃からおやじに連れられて美術館や博物館によく行っていましたし、中学生の頃からは自分でも美術館通いを始めました。
STEMONでは読解教室も開いていますが、教員経験もある中村さんに言わせると、問題が解けない子は問題を読んでもそこに書かれていることがイメージできていないそうです。私の場合、小さい頃に家に総ルビの本がいっぱいありました。おやじがきっと本棚の低い場所に置いてくれていたのでしょうが、私はそういう本を勝手に引っ張り出してむさぼり読んでいました。ルビがあることで、難しそうな言葉にも興味を持ち、イメージを自由に広げていけたのだと思います。
私が育った当時はもちろんSTEAMなんて言葉はありませんでしたが、振り返れば、今に至るまで私を支え続けてくれている力は、幼い頃のまさしくSTEAM的な学びの中で育まれたんじゃないか。そういう実感があったので、中村さんのSTEAM教育を広げていきたいという考えに心から共感したのです。

幼い頃自分がしていたのはSTEAM的な学びだったのでは、と考える