時代はエビデンスベースへ ビジネスで経済学が必須に
エコノミクスデザイン代表取締役 今井誠 (8)
「経済学」はビジネス最強の武器経済学をビジネスに実装する
よし、第一歩を踏み出そう。では、まず何から始めればよいでしょうか。
いきなり欧米企業の貪欲な活用を実践しよう、それは無理があるかもしれません。なぜなら、欧米には、経済学者を各部門ごとに配置し、日々の業務で学知の活用を行っている企業もあれば、若手経済学者でも年収数千万円で雇用する企業もあるからです。これは決して、経済学を過度に評価しているわけではありません。企業はデータ分析の重要性も理解しているし、研究者も企業データで分析できる。ビジネスと研究双方にとっての有益性を鑑みれば、当然ともいえる扱いです。
しかし日本では、まだまだ難しい。特に、雇用条件では、既存社員との問題もあり難しい面も多いかと思います。そもそも、多くの日本企業では、経済学博士号取得者を雇用していません。いきなり、社内に経済学分野の研究者が入社しても、どのように活用したらよいかわからないかもしれません。
私なりの答えとして、ビジネスに活用しやすい「武器」となるような経済学分野から幅広く研究に触れてみることを提案したいと思います。
そもそも、経済学にはどんな研究があるのでしょうか。まずは、どんな研究があるか触れてみることが良いと思います。すぐには、この研究って自社ビジネスに活用できるかもと見つからないかもしれない。少し触れただけで、活用できそうってわかるなら、そもそも日本企業もこぞって使っているはずです。
それでも、ビジネスパーソンの視点で経済学に触れること、自社のビジネスを分解して考えることには、大きな意義があります。そうやってみていくと、見える景色は少しずつ変わります。これは、私自身の経験からも明らかです。
経済学の多くは、実経済と直結した研究をしています。活用するデータも、大半は実経済のデータです。ひとまずは、一つの分野を深く学ぶ必要はありません。幅広くどんな研究があるか知ること。そうすると、「自社の課題に合った研究かもしれない」と思う研究に出合うはずです。もしなかなか出合えなければ、そこは私たちがお手伝いするところだと思います。広く触れていく中で、もし、そんな研究に出合えたら、ぜひその研究者を訪ねてみてください。どの課題に、どの学知が解決策を導いてくれるか。まずは、第一歩として経済学に触れてみるのはいかがでしょうか。
いざ、準備ができたら…
様々な経済学の分野に触れ、自社の課題解決に活用できそうな学知が見えてきた。そこからが、実装の本番です。まずは、経営陣と担当者の方々は、ぜひ一度研究者と自社の課題について相談してみてください。
ここで一つ、提案です。もし、研究者と相談するのであれば、最初はビジネス実装の経験者を交えて相談することをお勧めします。ビジネスパーソンが、経済学について多くを知らないのと同様に、研究者もビジネスのことをあまり知りません。欧米のケースは、研究者自身が企業で雇用されることもあります。他にも、企業側の経営陣に博士号取得者が在籍しているケースも多くあります。つまり、共通言語・共通体験でコミュニケーションが取れる。実は、これはとても重要なことです。
私自身、多数の企業・経済学者と共に、ビジネスでの経済学活用プロジェクトに参加しました。成長に貪欲な企業は、自ら能動的に学知を活用するために動いています。自社として、このプロジェクトとして何を目的にするか明確で、担当者を含め同じ方向に向かっています。ファーストペンギンとなる企業では、今後どんな未来が見えるか不明瞭です。
しかし、企業として生き残るために様々な戦略が必要になっているのは明らかです。当然、経済学だけが「武器」ではありません。しかし、日本企業の多くはまだ活用したことがない。そして、欧米企業では多くの事例が存在する。であれば、その機会があれば、ぜひ活用してみてはいかがでしょうか。
近年、リカレント教育の必然性が高まっています。その中には、プログラミングなどのデジタルスキルや会計などのファイナンシャルスキルなどがあるかと思います。当然、このようなスキルは今後ますます重要になるでしょう。まだ、多くの人が経済学のリカレント教育に注目していない状態です。デジタル化がますます進んでいく現代。この中で、社会の仕組み・データから学ぶ経済学は、企業の様々な成長戦略の羅針盤となることは必須です。
経済学を専門的に学ぶというとあまりに大きな壁で立ちすくんでしまうかもしれません。しかし、そのエッセンスを少しずつ満遍なく学ぶということであれば、「いいとこ」のつまみ食いも可能です。これからのビジネスの教養として、そして企業の成長戦略のエッセンスとして経済学に触れてみる。
DX化の要であるデータの見え方が少し変わるかもしれません。新サービスの根幹となる制度設計について、新たな考えにたどり着くかもしれません。現代のデジタル社会は、データと制度設計は切っても切り離せない。であれば、自らチャンスを見つけに動き出すチャンスです。これから見える世界の色を少し変える。そのために、まず第一歩を踏み出す機会になれば幸いです。
(おわり)
