Z世代の旗手、藤井聡太四冠 伊藤忠元会長が強さ分析
ニューススクール「ビジネスの交渉でも最後の瞬間で『ここで終わったな』などと弱気になると、本当に負けてしまいます。個人的な経験では、1997年にコンビニエンスストアの買収に関して西武百貨店社長(当時)との交渉が行き詰まりました。伊藤忠社内でも買収反対の声がありました。膠着状態の時は相撲と同じで、最初に動いた方の負けが多いのです。しかし、粘り抜いて最後は譲歩することなく妥結しました」

丹羽氏は藤井四冠が「トップの3条件」を心しているという
――トップの条件の2番目に「忘れるという能力を持つこと」を挙げています。
「忘れるというのも一種の能力かもしれませんね。勝つにせよ負けるにせよ、いつまでも引きずっていては次のステップに進めません。藤井さんは勝った将棋は振り返らないといいます。負けて悔しい時はまず、睡眠を取るよう心がけ、翌日以降に負けを引きずらないようにしています」
対局は決断の連続 自分の読みを信じ切る精神力
――第3のトップの条件は孤独に耐える力です。企業経営にも通じますね。
「伊藤忠の社長時代に、株主の配当金を無配にし、バブル期の負債4000億円を一括処理する荒療治を断行しました。こういう時は誰とも相談できません。藤井さんにとって対局は決断の連続なので、最後は自分を信じることが大事だと話しています。勝とうとするより、最善に近い選択を続けることで、敗北から遠ざかることを心がけているともいいます。経営の極意に通じます。トップ自身の悔しさとか、孤独感とかがないと次の強さの糧にはできません。孤独にならないと、本当の心の強さが育ちません」
――3つの特徴に加え、自由な自分の信念に忠実に生きる精神の大切さも説いています。前例にとらわれず、気持ちの上で現場に戻ることの大切さも話しています。棋士にとって現場とは、盤上での読みのことですね。
「ある種の反骨精神は必要です。かつて役員会で賛成17人に対し、3人が体を張ってでも反対という案件がありました。社長の私は一晩考えると引き取り、結局は3人の意見を採用しました。若いビジネスパーソンも上司に対して簡単に迎合してはいけないでしょう。『分からない時は現場に聞け』と私に教えてくれたのは瀬島龍三・伊藤忠会長(当時)でした」
「藤井さんの将棋にはプロ棋士でも予想が付かず、前例の無い手が多いといわれています。この手を指して万一負けるとしたらとは考えない自分との戦いです。最後まで自分に負けない心の強さです。自由な意志から自分自身の読みを信じ切る精神を感じます」