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不動産オークションへの実装で見えてきたもの

私にとっての経済学のビジネス実装第1号案件は、不動産オークションでした。土地や建物の価格・買い手をオークションで決める、という取り組みです。偶然にもオークション理論研究の第一人者が中学高校の同級生だったため、実装プロジェクトそのものはスムーズに始まりました。こうした関係性ですから、1つ目の心構え「パートナーシップ」は、すぐにフラットで意見し合える関係性を構築することができ、不動産業界の商慣習など、研究者からすると初めて聞く情報を的確に共有することができました。

他方、苦労したのが、2つ目の「相互理解」です。オークションと一言でいっても、「アカデミア」の世界と「ビジネス」の世界では、重視しているところが違います。そのすりあわせに思いのほか、労力がかかってしまいました。

3つ目の「発注能力」は、その後、私たちが運営しているワークショップで顕在化した観点です。いくら相談の機会を設けても解決に向かっていかないケースをいくつも分析してみたところ、ビジネスサイドが自身の課題をうまく分解できていない、という原因が見えてきました。経済学者はビジネスのプロではないため、曖昧なまま相談しても、問題の本質をうまく抽出できません。これらはすべて、実践の中から見えてきた心構えです。

日本では、ビジネスの課題解決に経済学からアプローチしてみようという流れは、まだ始まったばかりです。欧米の先端企業のようにうまく取り入れていくために、ぜひ3つの心構えを持って、向き合っていただきたいと思っています。

「武器」の特性を理解する

次に、「ビジネスの武器」としての経済学の活用についてお話しします。経済学の研究分野は多方面にわたります。その中から、「収益」「改善」「信頼」というビジネスに不可欠な特性に注目して、「武器」として活用しやすい分野を見ていきます。

まず、「収益」。「収益」拡大に直結する専門知として、「プライシング(価格戦略)」を挙げたいと思います。商品の価格は、製造コストの問題・販売価格値上げ(顧客離れ問題)・販売価格優位性(商品乗換問題)・継続購入(サブスクリプション)可能価格の設定など、多方面からの検証が必要です。直近では、原材料費の高騰やESGなどへの対応といった背景もあり、販売価格については喫緊の課題です。価格設定が今まで以上に収益に大きな影響が出る時代だからこそ、「データ分析」「市場調査」に専門知の活用が重要です。

続いて「改善」。業務「改善」に直結する専門知として、「CRM(顧客関係管理)」を挙げたいと思います。労働時間の短縮・人材不足の中、どうすれば効率的な営業活動ができるでしょうか? 新規顧客を獲得する。既存顧客との関係を継続する。営業インセンティブの効果を高める。こうした業務・収益「改善」の時は、何を改善するのが効果的かをデータから読み解いていくことで失敗しづらくなります。

3つ目は、「信頼」。「信頼」向上に直結する専門知として、「メカニズムデザイン(制度設計)」を挙げたいと思います。「レーティング(評価)」「クリプト(暗号資産)」「オークション」などは高い信頼性があって初めて運営が成り立つサービスです。専門知に基づいたサービス設計によって、利用前から信頼を構築することができるほか、必要に応じて設計内容を開示することも可能です。「根性論」や「勘」で行動する時代ではなくなったのです。

業界ごと・企業ごとに必要な特性は異なります。自社のビジネス課題を特性に分けて捉え直し、経済学の分野と照らし合わせることが重要です。

「武器としての経済学」は、データ取得・分析を繰り返すことによって精度が高まっていきます。使い続けることで、優位性が上がっていき、最強の武器になっていくのです。

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