経済学のビジネス実装 成功のカギを握る3つの心構え
エコノミクスデザイン代表取締役 今井誠 (2)
「経済学」はビジネス最強の武器私が、不動産オークションに経済学を実装した理由
私が初めて不動産オークションに関わったのは、2001年です。それから6年間、不動産オークションでさまざまな実績を積みました。その後、2018年に、今度は経営陣として不動産オークションの運営に参画しました。運営者として感じた課題は、売り手に対する説明責任でした。なぜ、私たちの運営するオークションでは、「最高値」で売ることができるのか。オークションの方法論は膨大にあり、失敗しているオークションも多数あります。専門家と連携して、失敗しにくい仕組みをつくること。求めに応じてその仕組みを第三者に開示できること。それが、運営者が売り手に対して果たすべき責任だと考えました。
私が学知を実装する前から、同社は不動産オークションを導入しており、不動産オークション事業は安定した収益源となっていました。ただし、この当時なされていた説明は、「高値で売却するために、購入検討者同士でオークションするオークションだからたくさんの人の目にとまる、高く売れる」といった類いのもので、ロジカルに説明責任を果たせる状態ではありませんでした。
より顧客からの信頼を得るため、そして業界を活性化させるためには、説明責任を果たさなければならない。このような問題意識から、私はオークション理論やゲーム理論の知見を取り入れた施策を検討していったのです。こうした説明責任が必要なのは、不動産オークションだけではないと思います。ご自身のビジネスでは、説明責任をきちんと果たせているのか。その視点で見ていただくと、学知導入の切り口が見えるかもしれません。
さて、私自身のオークションへの学知の実装に話を戻します。参加者への説明責任を果たすためには、オークションに関わる3種類の立場の人――「売り手」「買い手」「マーケット運営者」それぞれの立場に応じて、学知を実装することが必要でした。
「売り手」の立場の人であれば、「収益」のための武器を強く求めるでしょう。少しでも高く売ることが収益増加につながります。「買い手」もまた「収益」のための武器を求めますが、そのニーズは「売り手」とは逆で、少しでも安く購入することを求めます。
他方、「マーケット運営者」の求める学知は、「売り手」や「買い手」とは大きく異なります。1件1件のオークションによる「収益」よりも、「信頼」を高めるために学知を重視するのです。なぜなら、「マーケット運営者」は、より高い値段で売買されても、つまり「売り手」の収益が増加しても、数パーセントの収益しか増えません。それならば、取引の量を増やすなどして、手数料を増やす方法を考えたほうがいい、ということもあるでしょう。そのために必要なのは「信頼」だ、というわけです。このように、ある一つのビジネスに注目しても、立場によって、導入すべき学知は異なります。
これからは、様々な形で学知の実装が進んでくると考えています。信頼性を担保する仕組みとして「経済学」を実装する、それが実装の目指すべき姿の一つだと確信しています。
