「50億調達して」 ベンチャー移籍で劇的リスキリング
myリスキリングストーリーそう思っていたところ、大企業の人材をベンチャー企業にレンタル移籍させるサービスを展開するローンディール(東京都港区)がパナソニックと契約していることを知り、移籍候補者となるべく早速手をあげた。こうした仕組みは近年じわりと広がっている。
ものづくり系のベンチャーを希望した落合さんが、いくつかある候補の中から選んだのは、遠隔操作ロボットを開発しているテレイグジスタンス(東京・中央)だった。「AI、ロボティクス、VR、AR、いわゆる流行の技術が『全部盛り』の会社だったので。今の技術の進展を感じたかったし、経営者と距離が近いという点も魅力でした」
大企業とのギャップに「毎日泣いていた」
希望に胸を膨らませてベンチャーの扉をたたいた落合さんだが、「最初の1、2カ月はもう、しんどくて、毎日泣きまくってました」とふり返る。大企業とは真逆の環境を求めてレンタル移籍したにもかかわらず、ギャップは想定以上だったという。
パナソニックでの働き方は、決裁権を持っている役職の人に向けて、技術的なオプションを提示して判断を仰ぐのが仕事だった。ところがテレイグジスタンスでは、「うん、それで君はどうしたいの」と社長から詰め寄られる日々。「頭では分かっていましたけど、『僕はそんな責任なんて取れないし……』という感じで、本当にカルチャーショックでした」
そして、社長から最初の仕事として言い渡された言われたのは「国の助成金を活用して、50億円の資金調達をしてきて」だった。「そもそも資金調達のやり方なんて知らないし」と途方に暮れるしかなかった。
もう一つ、落合さんにとってきつかったのは、社員が外国人ばかりで社内で使われるのが英語だったこと。英語が得意なほうではなかった落合さんにとって冷や汗の連続だった。
「20万円分働こう」と開き直る
レンタル移籍の間の落合さんの給与は、パナソニックから支払われていた。一方、人材をレンタルされる側のテレイグジスタンスは、ローンディールに月々のサービス利用料を支払うという仕組み。「(サービス利用料は)月々、20万円程度。それで、とりあえず自分は20万円分の価値を出せばいいやって、あるとき開き直ったんです」
知らない環境でできないのは当たり前。わからないのなら聞きながら、そして自分の考えをぶつけながら手探りで進んでいけばいい。3カ月ほどたって落合さんはようやく吹っ切れたように動き始めた。英語の環境を乗り切り、様々な助成金にあたって50億には全く届かないまでも1億円程度を調達することができた。
コンビニエンスストアのバックヤードで、ロボットがどのような動きをしたら効率的に陳列できるのか、オペレーションタイムはどれぐらいか、安全性は大丈夫かなどを整理して、ロボットの仕様に落とし込むのが、テレイグジスタンスでの落合さんの仕事だった。
電池の技術とロボティクスは、技術的には全く異なる分野だ。ところが、「技術者として論理的に考え、リスクを洗い出しながらプロジェクトを進めるという意味では、対象が電池であろうとロボットであろうと同じであることに気づくことができた」という。
レンタル移籍の期間は、2017年から18年までの1年間。濃密な1年間の中で落合さんはどのようなリスキリングを果たしたのだろうか。