働く母親の罪悪感「マミーギルト」 コロナで深まる
働き方「母親が子育てに専念」 50年前の考え方引きずる
根強く残る性別役割分担意識の影響もある。恵泉女学園大学学長の大日向雅美さんは「母親が子育てに専念しないと子どもに悪影響がある、とする50年前の考え方を引きずっている」と指摘する。
専業主婦が誕生した大正時代の育児書は「子育ては母親が1人ですべき」と説いた。1950年代以降の高度経済成長期、男性が仕事に専念し、女性に育児や介護を託す動きの中で、この考え方が一般家庭に浸透し家事や育児が女性の責務になったという。大日向さんは「男女平等の教育を受け平等に仕事をしても、遺物を引きずったまま。この格差が苦しさの原因」と話す。
ウーマノミクス・プロジェクトのアンケートでも「自分の母のようにお菓子を手作りしてあげられない」(東京都・30代)、「専業主婦がかけられる時間を、本来子どもにかけるべきだと思ってしまう」(神奈川県・40代)、といった声が目立った。
罪悪感、自ら手放す動きも
だが、現代は収入が増えにくい中、子どもの教育など求める生活水準は上がり「女性が出産後も正規雇用にとどまり共働きを続けないと、豊かな生活がしづらい」(大和総研の是枝俊悟主任研究員)時代だ。罪悪感を自ら手放そう、という動きも生まれている。

子育て世代向け女性誌「VERY」(光文社)は21年から22年に4号にわたり「そんなの、かまへん!」特集を掲載。「ご飯を作りたくない日は吉野家へ。牛皿買って夕ご飯。そんな夜があったってかまへん!」、「『ママも部屋着で登園』だってかまへん!」など立て続けに「手抜き」を訴えた。
読者の「夫に『そんなのかまへん』と言ってもらうと心が軽くなる」との声から始まった企画。「家事や育児のハードルを上げすぎなくていい、肩の力を抜こう、周りの人にもかまへんマインドで接してほしいと伝えたい」と編集長の今尾朝子さんは話す。
ボークさんも母親に「まずは1日15分、自分の時間を作ること」をすすめる。「良い娘、良い妻、良い母と誰かから見た立場だけで人生が終わる時代は終わった。自分が幸せになれる方法を主体的に考えるべきだ」と話している。
マミーギルトは離職理由にもなりかねない。「仕事を辞めたいと家計相談に来る女性らから『子どもを犠牲にしている』という言葉を呪文のように聞く」と話すのはファイナンシャルプランナーの内藤真弓さん。内藤さんが数年前に子どもを持つ女性医師26人に聞き取り調査をした際も、この「呪文」を多く聞いた。
立命館大学教授の筒井淳也さんは、在宅勤務の普及で「男性にも家事や育児の負担が見えやすくなった」と指摘する。コロナ禍は家庭内の分担を変えるチャンスでもある。「呪文」を唱える前に、自分の仕事を大切に思い、障害を除く策を考えたい。
(川本和佳英)