コンサルからプロコーチ・社長へ 他者に貢献、道開く
ウエイクアップCEO 平田 淳二氏(下)
キャリアの原点社長に立候補 「他者に貢献すれば必ず返ってくる」
11年に起きた東日本大震災の際には、コーチングを生かして被災者の立ち直りを支援したり、コーチングには必ずしも関心があるわけではないが、よりよいコミュニケーションや人間関係を求めている人たちに向けて、半日間の独自プログラムを開発したりした。さらにCTIジャパンは卒業生とも協力して、企業の組織文化の改革、リーダー育成などにコーチングを導入してもらうよう働きかけ、ソニーや全日本空輸(ANA)、ホンダなど多くの企業で採用が実現。14年にCTIジャパンとして出版した「マンガでやさしくわかるコーチング」も予想以上の反響を呼んだ。平田氏はこの間の奮闘を「他者に貢献すれば返ってくるというのは本当だった」と振り返る。
20年、当時社長だった島村剛氏が代替わりを表明。「次期社長は自薦・他薦を問わず立候補してほしい」と呼びかけた。平田氏は、個人事業主という一歩離れた立場から経営に参画する従来のかかわり方がベストだと思っていたが、誰も手を上げない状況を見て気持ちが変わった。
「これまでも『(CTIジャパンを運営する)ウエイクアップの平田です』と言ってきたし、経営にも深く関与してきたのだから、今度は僕が責任を持ってやろうと。内心、『誰かが推薦してくれないかな』と期待する気持ちもあったのですが、どうせやるなら、自分で決めてやった方が力が出るだろうと考え、手を挙げました。そういう気持ちになれたのも、実は受講生のコーチングの練習相手になり、『本当はどうしたいのですか』と問われたからなのです。コーチングはコーチとクライアントの協働作業。コーチは指示やアドバイスをするのではなく、クライアントが自分で決める『場』を作る役割を果たします。つまり、僕が決断する場を受講生が作ってくれたわけで、彼らの成長を感じることもできてとてもうれしかった」
調査会社のIBISワールドの調べ(19年)では、コーチング発祥の地、米国のビジネスコーチング市場は約150億ドル(約1兆7千億円)にのぼる。日本では300億円規模と米国とは大きな開きがあるが、それでも15年から19年までの4年間で6倍近くに拡大した。
背景には、終身雇用の見直しが進み働き方の選択肢も増える中で、キャリア形成に悩むビジネスパーソンが増えているという事情がある。それと相まって組織マネジメントの仕方も変わり、コーチングを生かした「1on1」へのニーズも高まっている。
「キャリアを会社任せにするのではなく、本当に自分は人生で何を成し遂げたいのか、どう生きたいのかを考える人が急激に増えてきたと感じます。お金持ちになりたいという動機で働く人よりも、人との関わりに喜びを見いだす人が増えている。特に若い人にその傾向が強く、コーチングを学ぶ人の平均年齢もどんどん若くなっています。コーチングを学ぶと学んだ本人が変わるだけでなく、その人が周りにもポジティブな影響を与えていく。そういう事例をたくさん見てきました。もし日本で100万人がコーチングを受けている状態になれば、面白い日本になるんじゃないでしょうか。自分自身が生きたい人生を生きる人を増やす。これが、僕自身の人生のテーマです」
(ライター 石臥薫子)