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編集部の体制、秘密の編集会議

科学や歴史の研究者が発表する最新の論文は「ネタ探しの大きな柱になっている」と、三上編集長は明かす。たとえば、20年2月号では「最新脳科学と超意識の謎」を取り上げた。初めてブラックホールの撮影に成功した快挙があった19年の9月号では「ブラックホールとタイムトラベルの謎」を総力特集のテーマに選んでいる。

正統派のアカデミックな論文で異星人が真剣に論じられることは多くないかもしれないが、周辺領域での研究はあり得る。編集部の目利きが巧みに関連付けると、謎まみれの異星人ストーリーと学術的な科学的知見がない交ぜになったような「ムー」らしい物語に仕上がる。「怪しいと妖しいの両方の意味を帯びた『あやしい』は我々にとっては最高の褒め言葉」と、三上編集長はミステリーに携わる者の自負を示す。

「ムー」2021年9~11月号の目次

「ムー」2021年9~11月号の目次

テーマと書き手をつなぎ、物語に仕立てる編集部の存在は「ムー」最大の謎と言えるだろう。だが、三上編集長によれば、その実体は意外なほどこぢんまりしている。「常駐の編集者は3人、非常駐がさらに2人程度」という。つまり、わずか5人であの膨大な文字数を誌面に落とし込んでいるわけだ。

あれだけマニアックな中身だけに、さぞかし超常世界好きの編集者が集まっているのかと思えば、「それぞれに得意分野や好みはあれど、特段、ミステリーにはまり込んでいるわけではない」という。ただ、三上編集長だけは別かもしれない。「ムー」的世界への知見の広さがただごとではない。ネッシーやUFO、黒魔術、ノストラダムス、トンデモ科学などの話題が次から次へと飛び出し、まるで「生きた『ムー』」のようだ。この人のリーダーシップがあればこそ、「ムー」が42年間もぶれずに続いているのだと思える。

しかし、実際に「ムー」の記事を書いているのは、主に外部の書き手集団だ。見方を変えれば、彼らこそが「ムー」の正体とも言えるだろう。編集者は全体をまとめる立場であり、「雑誌は書き手に発表の場を提供している」という立場だからだ。責任をないがしろにする意味での「場の提供」ではない。「多様な見方を表現してもらう舞台を積極的にプロデュースしている」と、三上編集長は「ムー」の役割を説明する。

外部の書き手は独自の視点からテーマを掘り下げている独立系研究者が多いという。中核を成しているのは、「常連」と呼ばれる、登場頻度の高い書き手だ。三上編集長によれば、「合計20人程度の書き手が主力メンバーとして寄稿してくれている」。さらに準常連層まで含めて50人程度の書き手がリストに名を連ねている。

それぞれに日々、追い求めているテーマがあり、新たな論考がまとまると、編集部に提案が寄せられる。特集テーマが決まってから、その分野を得意とする書き手に呼び掛けることもある。編集部と外部ライターたちの有機的な連携が「ムー」の濃密な世界を支えているといえそうだ。

ただ、編集部は「それぞれの主張を尊重し、誌面で紹介している。どれが正しい、間違いという判断は下さない。どう読むかは、読者に委ねている」(三上編集長)。つまり、雑誌としての主張の押しつけはしないわけだ。信じたり疑ったりする知的ゲームの要素まで楽しめる余地を残すのが「ムー」の流儀だ。

毎号の文字数が多いだけに、編集会議でのテーマ出しが欠かせない。しかし、先に三上編集長が明かした通り、ネタは尽きている。だからこそ、材料を持ち寄る編集会議はよその雑誌にも増して行き詰まりやすい。三上編集長は「ほとんどダボハゼ。ちょっと面白そうな企画にはすぐ食いつく」と笑う。

しかし、この領域の言説には危うさをはらむことが避けにくい。「長年の読者は目が肥えていて、中途半端なトンデモ説は相手にしない。それぞれの主張のあやしさを面白がる懐の深さや距離感の保ち方を心得ている。この読者層の厚みが最大の宝。それだけのリテラシーを持つ読者が相手だけに、半端な説は載せられない。編集会議できっちりふるいにかける」と、三上編集長は語る。

宇宙開発や遺伝子工学のニュースが相次いでいることが示す通り、科学技術の進歩はめざましい。これだけサイエンスやテクノロジーがいろいろな謎を解き明かせば、「ムー」の居場所が小さくなりはしないかとも思えるが、三上編集長は「かえって謎は増える一方」という。「表面的な『科学万能』が広まるほど、その裏側に何か分からないことが潜んでいるのではないかと考える懐疑論が広がる」からだ。

科学技術の拡張は、ワクチン接種に伴う陰謀論の広がりが示すように、一筋縄ではいかない議論を呼び覚ます。フェイクニュースを含めて情報が増えて、事実との向き合い方が難しくなった現代は、謎に特化したメディアである「ムー」の存在意義を深くしているようだ。後編では創刊の経緯や、廃刊危機を乗り越えた決断、近年の新プロジェクトなどを取り上げ、さらに「ムー」の謎を掘り下げる。

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