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女性たちの悩みが映す日本社会の課題

さらに女性たちを悩ませているのが、日本の社会における多様性の低さや労働慣行における問題です。女性活躍推進法など様々な法整備は進みつつあるものの、性別や雇用形態による待遇面での格差解消は思うように進んでいるとは言えません。それに加え、ハラスメント問題も後を絶ちません。いくら真面目に働いても報われることはない、といったあきらめや失望感が女性たちの中に漂っているのではないでしょうか。

子どもを出産しても、家事・育児は女性の役割と言わんばかりの目に見えない圧力に加えて、しっかりと働くことも求められる。頑張って働いても、給与は思ったほど上がらず、ワーク・ライフ・バランスどころではない状況……。これらを打破するために、言葉や文化などの壁を承知のうえで、海外に活路を見いだしているのかもしれません。

海外はジョブ型雇用なので、基本的に性別や年齢で差別を受けることはありません。その国でニーズの高いスキルや資格、一定の語学力を身に付ければ生活ができるかもしれない、さらに子育て環境も良いとなれば、日本の女性たちが海外に目を向けても不思議ではないでしょう。

日本の女性の正規雇用比率を、5歳刻みの年齢階級を横軸として折れ線グラフにすると25〜29歳をピークに右肩下がりの線を描きます。これがいわゆる「L字カーブ」と言われる問題です。女性全体の就業率自体は上がっているものの、L字カーブが示すように、その受け皿は正規雇用ではなく非正規雇用が主体です。このため、平均賃金も低いなどの課題が指摘されています。

賃金は目の前の生活ばかりでなく、将来の年金受給額にも影響します。世界トップレベルの長寿社会である日本において、長生きリスクに対する不安は、女性にとってはより深刻な問題なのです。

どこで働き暮らしていくかは個人の自由であり、尊重されるべきものです。一方、日本の人口減、少子化問題の見地からすれば、女性の国外永住者が増え続けることは望ましい状況とは言えないでしょう。

ジェンダーギャップの解消を

先行きの経済不安に関しては、日本の景気回復が重要ですが、悪しき労働慣行については、性別や年齢に関わらず働きやすい柔軟な雇用環境整備への取り組みも欠かせません。社会保障制度や税制についても、時代に即した見直しが必要だと考えます。こうした問題に積極的に手立てを講じていかなければ、日本を離れる女性は静かに増え続けていくのではないでしょうか。

これらはあくまでも個人的な見解に過ぎません。とはいえ、職場におけるジェンダーギャップの解消など、日本の中で取り組むべき課題はまだまだあることでしょう。

そうした社会全体での取り組みに加えて、働く私たち自身も自分のキャリアについてもっと考えていきたいものです。人生100年時代と言われ久しいですが、働く期間の長期化により「定年」がキャリアのゴールだった時代は過ぎ去りました。今回、見てきたようにITの進化やグローバル化は私たちの働き方に大きく影響を与えています。これからの時代、仕事内容そのものも変わっていくでしょう。新しいスキルを得るための学び直しも、これからは当たり前になっていくはずです。

いつまで、どこで、どのように働くか。年齢を問わず、私たち一人ひとりが自分の価値観に照らし、考えていく時代になっています。海外を目指す女性たちは頼もしく映りますし、世界に活躍の場を広げることは素晴らしいことです。一方、日本が諸外国に後れを取っていく状況を歯がゆい思いで見ているのは、私だけではないはずです。

真の意味で、女性たちから支持される国になることを願ってやみません。

(おわり)

佐佐木由美子
人事労務コンサルタント・社会保険労務士。グレース・パートナーズ株式会社代表。人事労務・社会保険面から経営を支援。多様で柔軟な働き方の雇用環境整備や女性の雇用問題に積極的に取り組んでいる。働き方やキャリア、社会保障などをテーマに多数執筆。

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