経済学は値上げ戦略の切り札 膨大な研究が価格導く
エコノミクスデザイン代表取締役 今井誠 (6)
「経済学」はビジネス最強の武器アンケートは、読者の皆さんにとっても身近な存在だと思います。セミナー受講や様々なサービス・商品の利用者アンケートなど様々な場面で、依頼され回答しているでしょう。商品値上げに関するアンケートでは、「この商品はいくらまでなら買いますか?」とか「この商品はいくらくらいだと思いますか?」など値上げ後の価格に焦点を当てて調査する形をイメージする方が多いのではないでしょうか。
ここで考えたいのは、そうやってされた回答が、本当に的確なのか、ということです。例えばあるアンケートで「購入してもよいと考える価格」を回答したとしましょう。では、その価格より少しだけ高い価格になった場合、購入しないでしょうか。商品属性や差額にもよりますが、実はその回答した価格よりも多少高くても購入する消費者は多く存在することが実証されています。つまり、購入してもよい限界の価格は一般的なアンケート手法で聞いても、最適な値上げ額は導き出されにくいのです。
では、本音を聞き出すにはどうしたらいいでしょうか。第3回でも少し触れましたが、経済学では真の評価を導き出す手法を膨大に研究しています。その知見を取り入れるのです。一例で言いますと、「いくらまでなら買いますか?」という質問と「これ以上高かったら購入しない価格はいくらですか?」など複数の質問を組み合わせることで、最適な値上げ額に近づくことができることが分かっています。前文の「いくらまでなら買う」「いくら以上なら買わない」という2つの質問は、よくよく考えるとほぼ同じ質問です。しかし、同じ商品に、この2つの質問をすると、それぞれ違う価格を回答するケースは多いのです。
このことからもアンケートは、それぞれの商品の特性・アンケートで明らかにしたいこと・回答者の属性などに合わせて設計することが不可欠です。価格設定の戦略の決定という、企業にとって大きな影響力を持つデータの収集を目的として、先端企業では膨大な研究成果が活用されています。「神は細部に宿る」といいますが、アンケートという身近なことだからこそ膨大な研究に少しでも触れ活用してみると、見える世界が変わると思います。
アンケートの内容から重要なメッセージを見つける
「アンケート」に関連する学知に関して、調査会社と一緒に行っている取り組みについて説明します。
冒頭で説明した原材料価格高騰だけでなく、ESGやSDGsなどの取り組みでも、値上げの流れは不可避です。例えばESGでは自然由来の原材料の使用(E)や人権問題(G)などに対応するために、コストは増すことになります。では、ESG対応での値上げはどれだけ消費者に許容されるのでしょうか。ESG対応の進展にも大きな影響を与えるこの問題を考えてみましょう。
消費者はどういう要因であれば、値上げは許容できるのか、アンケートを行ってみると、見えてくる答えがあります。
まず、各企業が掲げるESGの目標に対する消費者の評価を見ると、安易なESGへの対応は消費者の理解を得られない傾向にあります。暴騰で説明した原材料価格高騰など、「やむを得ない(と消費者が感じる)値上げ」と比べると明らかに許容度が低下しています。一方で、企業としてはESGへの対応が必須であることを踏まえると、各企業が発信するESGのメッセージを企業・消費者双方が確認する仕組みとしてのアンケートの学知の活用は、有用だと言えるでしょう。
続いて、新規サービスの商品設計に関連する調査でのアンケートの活用です。新規サービスの開発では、開発者側が当初想定しているニーズと、顧客からの評価がかみ合わないケースは残念ながら少なくありません。「便利」で「世の中から求められているサービス」を開発し、いざ、発売したところ、全く売れないというケースなどです。こうなると「本質的なニーズは、何だろうか?」と頭を抱えることになります。