ジョブ型雇用は万能か? 導入企業から見える問題点
KPMGコンサルティング 油布顕史プリンシパル
キャリアとお金を考えるそして決定的に異なるのが、ポジションや職務を変える異動や配置です。メンバーシップ型は個人の能力をみて昇格させたい場合、ポストに空きがなくても「担当部長」や「課長補佐」といった新たなポストを設定し、異動や昇格ができますが、ジョブ型はポストの数と要員数があらかじめ決まっているため、個人の能力が高いからという理由でポストを増やすことが原則としてできません。ポストに空きがなければ昇格できませんし、今より上のポストに移りたい場合、社内でそのポジションに空きが出て、公募があったときに応募して採用されて初めて昇格し、報酬は上がります。

「成果主義」と「ジョブ型」は別物
ジョブ型雇用で従業員に求められるのは「定められた範囲の業務を滞りなくきちんと行うこと」です。端的に言えば、その仕事さえできていればよく、高い成果を出しても給与に反映されるわけではありません。ジョブ型と成果主義を混同して理解している方もいるようですが、成果主義の手段がジョブ型ではなく、両者は別物だと言えます。新型コロナウイルス禍によるリモートワーク環境を機に、ジョブ型を検討する企業もあります。話を聞くと「リモートワークでは仕事のパフォーマンスが見えないから、仕事をきっちり定義できるジョブ型にすれば成果を測りやすい」と言います。定型業務などジョブ型が適した性質の仕事があることは事実ですが、誰もが「こうすればよい」という共通イメージを持てないような非定型的業務や難易度の高い職務はジョブ型に適しているとは言えず、「リモートワーク環境=ジョブ型」という考え方は誤った認識だと言えます。
ジョブ型を導入した企業が直面する問題は異動・配置です。日本企業では部門の立て直しや人材育成の目的で、意図的に優秀な人材を異動させることがありますが、ポストに報酬がひも付ていると報酬が下がる場合が発生するため、異動がやりづらくなります。また、特殊なスキルを持った人材を処遇するための新しいポストを設けることができません。会社の都合で部署を閉鎖し、ポストがなくなった場合にも報酬は下がります。このようにジョブ型の導入はこれまで日本企業が普通に行ってきたことがやりづらくなります。
また、毎年給与が上がる定期昇給という考えはジョブ型にはありません。報酬はポストにひも付いているので、ポストの位置が変わらない限り変わりません。つまり、「給与は上がり続ける」というカルチャーから「給与はポストを変わらないと上がらない」というカルチャーを受け入れられるかということです。
メンバーシップ型を採用する多くの日本企業は「個人が仕事をこなす能力は経年的に上がる」という前提のもとで一律に昇格させます。最近は一律の昇格をやめる企業もありますが、一部の人を抜てきするだけで、あくまで基本思想は平等です。ジョブ型を導入している欧米では報酬を上げるにはポストを変える必要があるので「自分のキャリアは会社ではなく、自分自身がつくるもの」という考えが確立しやすいと言えます。ジョブ型を採用している欧米企業では、高い成果を上げるポテンシャルのありそうな人材は、サクセッションプランという別のキャリアルートに乗せられます。そこで意図的に企業が配置を決めて育成していきます。