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ジョブ型雇用は万能か? 導入企業から見える問題点
KPMGコンサルティング 油布顕史プリンシパル
キャリアとお金を考える視野の狭い人材が育つ可能性も
ここまでジョブ型の特徴を日本の雇用慣行と照らし合わせながら眺めてきました。ここからは若者がキャリアを積むための留意点について述べてみようと思います。
会社のさまざまな仕事を習得しながら一人前の人材を育てたいと考える場合はジョブ型の導入はお勧めできません。なぜなら、若いうちから限定された領域の仕事しかしないため、視野の狭い単能工的な人材が育つ可能性があるからです。変化の激しい時代に職務を固定すると柔軟な働き方が阻害される可能性もあります。異動・配置が制限されることで、育成が停滞するリスクが伴うことは想定しておく必要があります。
企業を横断する労働マーケットが十分整備されていない日本において、会社主導で若手を育成することはとても良い文化だと思います。若いうちに会社の機能を学ぶことでキャリアの裾野を広げることができますし、その経験は組織管理者やリーダーになった時に生きると思います。ただ、このやり方が企業にも社員にもメリットがあるのはせいぜい30歳代まででしょう。若いうちはスキルと賃金の伸びに相関性がありますが、人間は一定の年齢を超えると能力が徐々に上がらなくなってしまいます。そこで、仕事をこなす能力の蓄積が完了している一定年齢以上の従業員(管理職層やシニア層など)にジョブ型の考え方を取り入れるのが現実的だと思います。

昨今の流れをみると、一部の定型作業の従事者を除き、成果に応じて報酬を支払うという流れは変わらないでしょう。だからといって、目先の成果にこだわりすぎて自分自身のキャリアを若いうちから決めてしまうのは将来の可能性を狭めてしまうことになります。そこで、30歳くらいまでは自分のキャリアを見極める期間としてさまざまな仕事をこなし、40歳くらいになったら今の組織に不可欠な人材を目指してキャリアを積むか、社外で通用する専門的なスキルを持った人材を目指すかを選択するのが良いと思います。後者の場合は社内に専門的なキャリアを積めるアセットや成長の機会があるかどうかを見極め、それがない場合は自ら機会を見つけて専門知識を習得し、実践力を付けるのが効率的です。自社に専門的なアセットが少ないからといって他社に移る場合には注意が必要です。なぜなら、専門的なアセットの蓄積は他社でも似たような状況であることが多く、転職しても習得したいノウハウが十分にない可能性がありますので慎重に判断しましょう。
これからは「指示さえしてくれれば、やります!」といった「積極的受け身」の働き方では処遇が下がる可能性が高いことを覚悟すべきです。変化を起こし、それをカルチャーにできる人材こそが必要とされています。
組織・人材マネジメント領域で20年以上のコンサルティング経験を有する。大手金融機関・製造業・サービス業界の人事改革支援に従事。事業会社、会計系コンサルティングファームを経て現職。組織人事にまつわる変革支援-組織設計、人事戦略、人事制度(評価、報酬、タレントマネジメント)の導入・定着支援、働き方改革、組織風土改革、チェンジマネジメントの領域において数多くのプロジェクトを推進。企業向けの講演多数。