グラットン氏が説く働き方の未来 年齢差別はやめよう
ロンドンビジネススクール教授 リンダ・グラットン氏(上)
ニューススクール佐藤 グラットン教授が『LIFE SHIFT』『LIFE SHIFT2』の中で一貫して主張しているのは、3ステージモデル(教育→仕事→引退)からの脱却です。このモデルがもはや機能しないと考える理由は何でしょうか。
3ステージモデルは実際のニーズと乖離
グラットン これまで英国では、18歳で大学に進学し、20代で就職し、65歳で引退するといった3ステージの人生モデルが常識としてとらえられてきました。つまり「何歳になったらこれをしなければならない」という先入観が広く浸透し、誰もこのモデルについて疑問に思わなかったのです。
ところが「65歳で引退」という制度が始まったのは、平均寿命が今よりもずっと短かった時代です。65歳からの後の人生が短いことを前提に定年年齢が設定されていたのです。ところが過去20~30年の間に平均寿命は飛躍的に延びていきました。いまや英国人の平均寿命は80歳を超え、80歳や90歳まで生きるのが当たり前になっています。
私はまもなく67歳になりますが、同世代の間では「これからも働き続けたい」という人が圧倒的に増えています。つまり65歳になったからといって無理やり引退させるという制度は、人生100年時代を生きる私たち世代の実際のニーズと乖離(かいり)しているのです。
佐藤 日本人は年齢に対する意識がとりわけ強い印象があります。日本のメディアは特定の人物について報道する際には必ずといってよいほど年齢情報を入れますし、会社の同僚や仕事相手と接する際にも年齢をとても気にします。どうすれば、こうした「年齢の呪縛」から解放されるでしょうか。
グラットン 年齢差別(エイジズム)は日本だけではなく、世界のすべての国が取り組むべき重要課題です。
人種差別、性差別、障害者差別などの問題については広く認識されていますが、年齢差別もまた同じくらい重要な問題なのです。最も広くまん延している偏見の一つと言ってもよいでしょう。年齢を基準に人の能力を判断する、高齢者は生産性が低いと決めつける、高齢者は学習意欲が乏しいと先入観を抱く。これらは人間がいまだ真剣に取り組んでいない差別問題の1つなのです。
私たちが本書で提言しているのは「もう年齢差別はやめましょう」ということです。正直に言えば、年齢差別はあまりにも深く社会に根づいているため簡単にはなくならないと思っています。これが差別だと認識している人はほとんどいないでしょう。しかし人種差別、性差別、障害者差別なども最初は同じように当たり前だと思われていました。それでも、これはおかしいという人たちが増え、差別の解消に向けた努力が続けられてきました。
年齢差別、高齢者差別についても、「これはおかしな差別だ」と声をあげることが大切なのです。私自身は英国内で年齢差別を撤廃するための活動に参加してきましたし、最近では英紙フィナンシャル・タイムズなどの記者もこの問題に関心を持ち、多くのオピニオン記事を掲載しています。このような声が大きくなればなるほど、変化が加速していくと思います。
ロンドンビジネススクール教授。専門は組織行動及び心理学。1955年英国リバプール生まれ。76年リバプール大学卒業。81年同大学にて博士号取得(心理学)。ブリティッシュ・エアウェイズ、PAコンサルティンググループなどを経て現職。2015年ロンドンビジネススクールにて最優秀教員賞を受賞。世界経済フォーラム「未来の働き方・報酬・雇用創出に関する評議会」の共同議長。17年、日本政府主宰の「人生100年時代構想会議」のメンバーに。主な著書・共著書に『ワーク・シフト』『LIFE SHIFT』『LIFE SHIFT2』。