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投資家からの「好きにやっていい」が支えに

国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・企業統治)投資の文脈の中で、障害者と共生する社会への関心は徐々に上がってきた。社会課題を解決する革新的なソーシャルベンチャーが登場し、国の支援制度も整備が進む。しかし山本さんは「取り組みが進んでいるのは軽度障害者の方で、重度に対する支援はまだ不十分」と指摘する。

軽度から支援の裾野が広がるのを待つのではなく、自ら事業を起こして障害者領域を変革したい――。そんな思いで会社を設立してから半年余り、人材の入れ替わりを何度も経験しながら、ようやく状況が落ち着いてきた。ただ、だからなのか「今ちょうどモチベーションが落ちている時期」なのだそうだ。

取材に訪れた日はちょうど、2度目の展示会の直前。興奮もピークに達しているころかと思いきや、意外にも山本さんは迷いの中にいた。「いざやってみると単に自己満足でしかないと思ってしまって……」。目指す姿は、30歳くらいで大きな仕事をしている自分。それなのに「別の事業でキャッシュを生んで障害者領域に寄付をした方が、よほど大きなインパクトを残せるのではないか」という思いさえ頭をよぎる。

「今はやりたいことや好きなこと、自分を動かす原動力のようなものがない」と本音を明かす

「今はやりたいことや好きなこと、自分を動かす原動力のようなものがない」と本音を明かす

「今の事業を続けようと思えば続けられる。けれど、それでは大きい仕事ができてないとすごく感じて葛藤している」。願っていた通り起業はしたものの、その方向性や対象領域には疑問を感じているという。「今後、全く別の事業を始めているかもしれない。けれど、やりたいことや好きなこと、自分を動かす原動力のようなものもなくて、それもつらい」。思わず本音が漏れる。

しかし立ち往生しているわけではない。「僕、原動力はなくても動きはするんです」ときっぱり。会社についても「事業を完全にクローズしてしまうのはもったいないですし、投資家からは好きにやっていいと言っていただけているので、何でもできる状態です。むしろ何でもできることが強みで、可能性は無限大だと思っています」と表情は明るい。

そんな山本さんについて高浜氏も「最終的に答えは自分の中にしかないので、思う存分葛藤して、いろいろ試しながら興味の方向を見定めるくらいでいい。ただ、自分だけはだまさずに」と見守る。

迷いや葛藤は後退や停滞ではなく、山本さんが何かをつかもうともがいている証拠。「何ができるか分からない」は「何でもできる」の裏返しなのだ。「でも自分のやりたいことが何なのか、今のままではわからない。だから近いうちにインドに行きます。最低1カ月くらい」。思いがけない言葉が飛び出した。10年後、20年後に果たしてどんな起業家に化けているのか。挑戦は、これからが始まりだ。

(ライター 橋口いずみ)

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