利他主義と自己実現を1つに LIFULLのビジョン経営
LIFULL社長 井上高志氏(下)
キャリアの原点中国籍社員の提案で「住宅弱者」サポート事業
19年から「LIFULL HOME'S」の中で新たに始まった「FRIENDLY DOOR」は、井上氏の言う利他主義と自己実現の一致の典型例だ。年齢や国籍、LGBTQ(性的少数者)やひとり親、生活保護利用者、被災者であることなどを理由に希望する住まいを借りられない「住宅弱者」をサポートするサービスで、中国籍の社員、龔軼群(キョウ・イグン)さんの発案で始まった。龔さんは上海生まれで5歳から日本で暮らすが、帰化していないため中国籍のまま。その国籍のために入居を断られる経験をしたという。
「属性やバックグラウンドだけで、暮らしの基本である住まいの選択肢が狭められてしまうのは不公平。同じ悩みを抱える人は大勢いる。これは突き詰めれば社会課題だ」。そう確信した龔さんは、住宅弱者を受け入れてくれる不動産会社探しに奔走。その思いに賛同し、積極的に物件を紹介してくれる店舗は今、全国で約3600店舗にまで増えた。実際にどう対応すればわからないという声を受け、不動産会社の担当者を対象に講習会なども行う。入社13年目になる龔さんは「私はこの企画を実現するために入社したようなもの」と話す。
井上氏がビジョンと共に大事にしているのは社員の内発的動機だ。ライフルが「働きがいのある会社」や「ベストモチベーションカンパニーアワード」など各種のエンゲージメント調査や、社員口コミサイトで高い評価を得ているのも、そうした背景があるからだろう。
「人間が没頭できるのは、本当に自分がやりたいと思うことをできている時。だから社員本人がどうしたいのかをとにかく聞くようにしています。自分が本当にやりたいと思えば、会社があれこれ指示しなくても、社員は勝手に学習して成長していく。毎年100〜150件くらい新規事業提案があり、そのうち実現するのは数件にすぎませんが、みんな、自分の事業にものすごく熱い思いを持っているので、事業承認の際には感極まって涙する人もいます」

2006年に東証マザーズ(当時)に上場、その後も成長を続ける
今、同社では空き家再生を軸とする「LIFULL地方創生」や、日本最大級の介護施設情報サイト「LIFULL介護」、人生100年時代におけるお金の不安解消を目指す「LIFULL人生設計」など数多くの事業を手がけている。その中で井上氏は社会課題を解決できるリーダーの育成に力を入れているという。
「たくさんチャレンジをする中で当然失敗もあるでしょう。これまでも、中国事業から撤退したり、家賃保証事業がうまくいかなかったりと、まあ死屍累々(ししるいるい)です。でも失敗といってもそれで諦めるわけじゃないし、糧を得ることも多い。事業としては成立しなかったけれども、思いを持つ社員が退社しNPOを作って続けているケースもあります」