変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

自分がいなくなっても成長する組織に

社員にたくさんのチャレンジをさせるのは、今社長である自分がいなくなっても成長する組織を作りたいからだという。自分自身、資金もスキルもゼロから起業し、挑戦と失敗を繰り返してここまで来た。温室育ちの経営者ばかりでは、事業や会社を持続的に成長させることはできない。

「私は小さい頃、勉強もスポーツもそこそこで、大学時代もちゃらんぽらんに過ごした凡人です。だからカリスマ経営者になりたいとは全く思っていない。目指しているのは、経営者に依存しない再現可能な仕組みを作れるリーダーです」

取材の最後に自身の夢は?と尋ねると、「平和な世界を作ることです」と即答した。そして「井上高志の人生のビジョン」と題する100歳までの人生計画を見せてくれた。

すでに着手しているのは、教育・リーダーの育成事業と、グローバルな住まいと暮らしの情報プラットフォーム構築など。3年後には食糧・水分野での社会的イノベーション事業を開始し、75歳までに貧困層の40億人が自立できる社会を作る。これが「第一次世界平和」で、さらに100歳時点で国家間の紛争がない「第二次世界平和」を実現するのだという。

いきなり話が壮大になったが、井上氏は真剣なまなざしでこう続ける。

「ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をはじめ、国際紛争の多くは資源をめぐる争いが関係している。資源を奪い合わなくていいようにするには、水、食、住、医療、教育、労働、エネルギー、通信というあらゆる領域で、潤沢すぎる社会を作ればいい。例えば空気と光と水から水素エネルギーを作るとか、今はテクノロジーを使ってそういうことが可能になってきています」

次世代技術の社会実装のために、21年には複数の企業、団体、自治体と組んで栃木県那須町に一般社団法人ナスコンバレー協議会を立ち上げ、自ら理事長に就任した。また19年には人々を場所の制約から解放し、好きな時に好きな場所に暮らし、学び、働ける社会の仕組みの構築を目指し、連続起業家の孫泰蔵氏らと一般社団法人「Living Anywhere(リビングエニウェア)」を設立するなど、着々と準備を進めているという。

「事業としてできることは事業で、できない部分や外部と組んだり、財団を作ったりして進めていきます。大変じゃないかって? いえいえ、楽しいですよ」

満面の笑みを浮かべ、足早に次の約束の場所へと去っていった。

(ライター 石臥薫子)

新着記事

Follow Us
日経転職版日経ビジネススクールOFFICE PASSexcedoNIKKEI SEEKS日経TEST

会員登録をすると、編集者が厳選した記事やセミナー案内などをメルマガでお届けしますNIKKEIリスキリング会員登録最新情報をチェック