地盤・看板・カバンなし「私たちこれで当選しました」
女性地方議員、「新たな形」の選挙に挑む
ダイバーシティハンドマイク抱え徒歩で演説、主な選挙費用は40万円
松江市の市議、中村ひかりさん(32)も「三バン」なし、SNSを駆使して21年4月の市議選で初当選した。10歳の息子を育てるシングルマザーだ。

市議会の事務局職員と打ち合わせする松江市議・中村ひかりさん㊧(松江市)
市役所の新庁舎建設の進め方に疑問を持ち出馬した。選挙期間中はハンドマイクを抱え徒歩で近所を往復。情報発信は主にSNSを使い、ユーチューブに子育て支援政策などについての動画を12本アップした。
日ごろから、市内の公園の遊具が老朽化で使用できない現状などをインスタグラムに投稿。「うちの近所も」といった母親の声が続々と寄せられ、子育て世帯への支持を広げていった。
とはいえ駅前での選挙演説では、足を止めてくれるのは数人。「手応えがなさすぎ」と肩を落とし「いつも、へこんで家に帰った」という。だがふたを開けてみれば2879票を集め、41人中10位で当選した。
中村さんは一般的な選挙資金として「150万円ほど必要」と聞いていたが、約40万円で済んだ。チラシは自分で作り、自営の会社のコピー機で印刷。ほぼポスター代と事務所の家賃代だったという。

市議となって9カ月。子育てと両立できる仕事だと感じている。期末手当を含めた21年度の年収は約670万円の見込みで「十分に生活していける」
支援者らとはランチやお茶会で意見交換。午後7時には活動を終え、子供と過ごしたり勉強会に参加したり。「選挙とはこういうものだという思い込みを取っ払い、誰でも挑戦できる社会にしていきましょう」と呼びかける。
女性同士で連帯「子育てしながらでも選挙はできる」
未経験でも地方議員になりたい、と考える女性らの連帯も生まれている。
兵庫県赤穂市議の荒木友貴さん(36)は21年4月の市議選挙でトップ当選した。市役所の職員経験はあるが、選挙の知識はない。そこで選挙前に女性の議会活動を支援する団体のスクールに参加し、街頭演説の方法などをオンライン講習で受けた。何よりも役にたったのが、スクールで知り合った先輩女性議員や元議員らのアドバイスだ。
小学生2人の母親でもある荒木さん。「支援者にマメに挨拶回りができない」という悩みに対し、先輩は「新しい議員像をPRしているのだから、子育てがあるとはっきり説明すればいい」と励ましてくれた。荒木さんは「常にプラスの気持ちで楽しく選挙に取り組めた」と振り返る。
現在もスクールで知り合った議員同士で情報交換する。「子育てしながらでも選挙や議員活動ができる、ということを若い世代に示したい」。今度は自分が後輩をサポートする番だ。
19年の統一地方選で、政令市を除く市議選では女性市議は過去最多の1239人が当選した。それでも割合は全体の18%にすぎない。志はあるが「三バン」がなく、時間に制約がある女性を後押しする仕組みが必要だ。赤穂市議の荒木さんは「ジェンダー活動をしている団体に国が資金を出し、政治経験がない女性が参加できるプログラムを」と提案する。
地方議会は、議員が国政にチャレンジする知見を磨く場でもある。女性が国政に進めば、地方だけでなく国の政策に一段と幅と奥行きが出る。もっと暮らしやすい社会に導けると思う。
(近藤英次)