変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

「この本には成功している人がそれまでにいかに失敗しているかも書かれています。『失敗』と捉えずに『実験』と思って楽しみながらやっていくとか、周囲のフィードバックをプラスに捉えるといったマインドセットの大切さを、新入社員にも感じてほしいですね」

「コモディティになるな」価値観揺さぶる本

もう一冊のお薦め本である『僕は君たちに武器を配りたい』はマッキンゼー・アンド・カンパニーを経てエンジェル投資家、教育者として活躍しながら47歳の若さで亡くなった瀧本哲史氏の代表作だ。「これから社会に旅立つ、あるいは旅立ったばかりの若者が、非情で残酷な日本社会を生き抜くための、『ゲリラ戦』のすすめ」として書かれた同書。笹倉さんは、自身がキャリアについて考える中でこの本に出合い「これまでにない衝撃を受けた」という。

「就活の時から今まで、自分が生涯で成し遂げたいことは何なのか、考え続けてきました。それは採用活動の中で出会う多くの学生さんも同じだと思います。簡単に答えが出る問いではなく、おそらく一生向き合い続けるまさに『正解のない問い』です。最近、それを考える上での軸が欲しいと思って本屋に立ち寄った際、この本に出合いました。第1章の目次タイトル『勉強できてもコモディティ』がまず衝撃でした。それまで私自身、努力して勉強すれば報われると信じてやってきたので、えっ、それじゃダメなのって」

自身もキャリアについて考える中で、ヒントをもらったという笹倉さん

自身もキャリアについて考える中で、ヒントをもらったという笹倉さん

採用の現場で笹倉さんは学生から「どんな資格が必要ですか」「プログラミングはできた方がいいですか」などと聞かれる場面も多いというが、同書は資格をどれだけ取っても差別化につながらず、コモディティー(汎用)化するだけだと指摘。さらに、「トレーダー」(商品を遠くに運んで売る人)と「エキスパート」(高い専門性で仕事をする人)には将来性がなく、逆に生き残れるのは「マーケター」(商品に付加価値をつけ市場に合わせて売れる人)、「イノベーター」(全く新しい仕組みを作り出せる人)「リーダー」(起業家となりリーダーとして行動できる人)、「投資家」の4つのタイプだと論じる。

「特になるほどと思ったのはマーケターについてでした。マーケターというと一部の企画職のように思われていますが、『単にモノを売るのではなくストーリーを売る』という発想はどの職種にも必要な考え方なのです。私自身も営業職だった頃、先輩から『ストーリーを大切にしなさい』と教わり、意識的に提案に組み込んでいたことを思い出しました。また、『ストーリーを売る』という発想は、自分自身に対しても言えることなのだと書かれています。自分を『商品』と言い切ることに抵抗を感じる人もいるでしょうが、自分にどんな付加価値をつけ、どんなストーリーで売っていくのかが大事だという指摘は、多くの学生や若手社会人に響くのではないかと思います。資格や企業のブランドなど表層的なものにとらわれずに、自分は人生をどういうストーリーで生きていきたいのか。それを若いうちから考えるかどうかで、同じ会社に入っても身につくものが違うと思います」

採用を担当する2人は、学生に何を勉強したらいいかと聞かれると逆に「あなたは何をしたいのか?」と問い直すという。目的もなしに「とりあえず」英語やプログラミングを学んだところで意味はないからだ。インターネット上にあふれる情報を見ていると、正解らしく見えるわかりやすいものに飛びつきたくなる。だが「就活とは人生の目的を考えるチャンス。その問いに向き合わずに社会人になると、きっと働き始めてからも壁にぶつかる。途中で変わっても全然構わないので、まずは自分の頭で考えてほしい」と2人は口をそろえる。

笹倉さんは『君たちに武器を配りたい』から「自分の頭で考え、リスクを恐れず挑戦しなさい。希望は自分の手で作り出そう」というエールを受け取ったという。乾さんが『クリエイティブ・マインドセット』から読み取ったメッセージは、「正解は、自分が行動する中で作っていくもの。そのためには恐怖を取り払ってまず行動せよ」。一見、毛色が違って見える2冊の本だが、発するメッセージの本質は共通している。

(ライター 石臥薫子)

クリエイティブ・マインドセット 想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法

著者 : デイヴィッド・ケリー
出版 : 日経BP
価格 : 2,090 円(税込み)

僕は君たちに武器を配りたい

著者 : 瀧本 哲史
出版 : 講談社
価格 : 1,980 円(税込み)

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