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経営者は心で人を動かす

著者が稲盛、永守両カリスマ経営者を取り上げ、本書を通じて最も訴えたかったことの一つは、「志本(シホン)主義経営」という経営哲学です。利益追求を第一に考える従来型の「資本主義」とはまさに対極にある考え方で、「志」をまず経営の始めに置く。これが「失われた30年」で日本企業がすっかり見失った日本独自の経営の根っこにある哲学だと著者は痛烈な批判とともに指摘しています。

長期の未来予測をもち、企業として個人として、我々がまず何のために存在するのか。誰のために、何をしたいのか。どのような未来をつくりだしたいのか。それらを徹底的に考え抜き、答えを見いだすことこそが、稲盛氏のいう「大義」であり、永守氏のいう「夢」であるとしています。そして本書冒頭の言葉を引きますが、「この揺るがない信念に基づく経営こそ、稲盛流、そして永守流の強さの本質である」(19ページ)と強調しています。

世の中では永守は、「強面のカリスマ経営者」とみられがちだ。しかし、知れば知るほど、永守の人間洞察力には舌を巻く。「部下の痛みを自らの痛みと感じ、共に分かち合うことのできる人間こそ、心で人を動かすことができる一流の人間」という信念に、永守経営の神髄がある。そして経営者は、「『人間』に関して幅広い勉強を続けることが必要であり、それが経営の感度をたかめることになる」と説く(『挑戦への道』)。
一方の稲盛は、「利他の心」や「大義」「正道」を語り続けることから、きわめて人徳に溢れた経営者とみられがちだ。もちろん、そのとおりなのだが、だからこそ、人間の弱さや私欲についてもよく見抜いている。そのうえで、神学論を振りかざすのではなく、自らの体験にもとづく信念を、相手の立場に立って、全精力をかけて語りかける。
稲盛経営と永守経営は一見まったく違う流派のようでいて、「人を動かす」という点において、その本質は寸分も違わないのである。
(第9章 魂を揺さぶる 196~197ページ)

非常に気高い志と信念をもちながら、なおかつ徹底した合理主義と緻密な数字に基づく経営を両立させる。本書を通じて2人の経営者の素顔を垣間見たような気がします。

◆編集者のひとこと 日本経済新聞出版・堀口 祐介

本書のアイデアがひらめいたのは5年以上前です。

稲盛さんと永守さん、同じ京都の会社のカリスマ経営者、書名もゴロがいい。こんな思い付きからスタートした企画ですが、永守さんの人柄、思考を熟知している名和さんという著者を得て初めて可能となりました。

名和さんは稲盛さん、永守さんの著作を丹念に読み込み、共通点を見事に抽出しています。実現したいことや目指したいことがあっても、それを裏づける論理に自信がないといった経営者・リーダー必読の本が出来上がりました。稲盛経営、永守経営の入門書としても最適です。

一日に数百冊が世に出るとされる新刊書籍の中で、本当に「読む価値がある本」は何か。「若手リーダーに贈る教科書」では、書籍づくりの第一線に立つ出版社の編集者が20~30代のリーダーに今読んでほしい自社刊行本の「イチオシ」を紹介します。

稲盛と永守 京都発カリスマ経営の本質

著者 : 名和 高司
出版 : 日本経済新聞出版
価格 : 1,760 円(税込み)

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