変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

私はもともと人間観察が好きなので、街中のレストランやスーパーで人々がどんなものを食べ、買っているのかよく見ているのですが、確かにモノの値段は驚くほど上がっています。レストランのメニューにもいっぱいシールが貼ってあって、価格が書き換えられています。チップも以前は13%、15%、18% から選べるようになっていたのが、いつのまにかその数字が15、18、20に変わり、今では最低ラインが20%。上は25%ぐらいにまで高くなっています。

特に日本人としては「うわ、高い!」と感じます。かつては1ドル100円のイメージでしたが、今はそれが仮に137円でチップが20%と仮定すると、137×1.2で1ドル164円ですからね。感覚的には2倍に近いかもしれません。

バランスシートは傷んでいない

でもアメリカ人が、物価がそれだけ上がってモノを買わなくなっているかというと、全然そんなことはないんです。米国もコロナ禍で政府が国民に補助金をたくさん配りましたから、個人のバランスシートは改善しています。ですから、低所得者もモノは買っています。今手元にあるお金を少しでも有効に使うために、スーパーでは安くて少し小さいサイズの牛乳を買って無駄にしないようにするとか、ノーブランド品を買うといった工夫はしていますが、買い控えは起きていない。一方、お金持ちも、高額商品をこれ以上値段が上がる前に買っておこうというので、旺盛に消費している。ですから全体として、モノは売れています。

今回がリーマン・ショックの時と大きく違うのは、金融機関も個人もバランスシートが傷んでいない点です。特に金融機関なんてピッカピカです。バランスシートが痛んでいるのは巨額の補助金を出した政府だけ。経済規模の小さい国は別ですが、国のバランスシートが多少悪化しても、日本や米国みたいな大きな国は、それですぐに危機に陥ったりはしません。もちろん中長期的には政府の債務が膨らみすぎると、国への信任が低下して通貨安を招くなど弊害はあるわけですが、とにかく当面、経済の底が抜けるような事態が起きることはないだろうと私は見ています。

松本大
1963年埼玉県生まれ。87年東大法卒、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券を経てゴールドマン・サックス証券でゼネラル・パートナーに就任。99年マネックス設立。2004年マネックス・ビーンズ・ホールディングス(現マネックスグループ)社長、13年6月から会長兼社長。08年から13年まで東京証券取引所の社外取締役、現在は米マスターカードの社外取締役を務める。

(ライター 石臥薫子)

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