通商政策への思い、ぶれずに進む
東京大学公共政策大学院教授・宗像直子さん(折れないキャリア)
キャリアコラム旧通商産業省の事務系で7人目の女性として1984年に入省した。同期に女性はいなかった。男女雇用機会均等法の施行前の就職活動で「女性はお呼びじゃない」という組織もあった。他省庁では「女性の採用は男性の後だから焦ってこなくてもいい」と言われたが、通産省は違った。
結婚して娘が生まれたが働きつづけることに迷いはなかった。「結婚しても子供を産んでも、自分の仕事を続けなさい」。物心ついた頃からの母親の言葉だった。簡単ではなかったが家族に支えられ、国会対応などでは徹夜して働いた。
仕事を続けるか悩む後輩に相談を受けた時には、「一生懸命やっていると四方八方から手が伸びてきて、助けてくれる人たちが必ずいる」と背中を押した。

むなかた・なおこ 東大法卒、通商産業省(現経済産業省)へ。首相秘書官、特許庁長官を経て、21年から現職。
試練は2009年、通商政策に携わっていた時に訪れた。環太平洋経済連携協定(TPP)について日本も交渉参加を検討すべきではないかと周囲に投げかけたが、「例外のない関税撤廃を目指すTPPは無理だ」と否定された。
世界貿易機関(WTO)ドーハ・ラウンド交渉が停滞し、米国は09年にTPP交渉に参加する意向を表明した。日本は国際競争力の弱い産業を高い関税で保護していたが、世界では自由貿易を成長エンジンに位置づけ、通商政策を見直す動きが広がっていた。