富士通の営業DX責任者が重視する情報武装スキルとは
富士通 友廣啓爾さん
職種&スキルの図鑑また、かつては担当者の名前や役職、部門名などの属性情報しかわかりませんでしたが、今はウェブサイト内のどのコンテンツをいつ、どのくらいの頻度で見たのかなどの行動情報も事前に把握できるので、お客さまの興味関心がどこにあるかを見極めた上で、アプローチします。
なぜそこまで事前準備するのか?
例えば「うちの3か年の中経(中期経営計画)では……」とお客さまが話し始めた時に、その内容が頭に入っているかどうかで受け答えが全然違ってくるからです。知っていれば「……ということは、そちらの部署では○○という課題があるということでしょうか?」などとさらに質問ができますよね。徹底的に情報武装することで、単なる傾聴ではない②のアクティブリスニングが可能になるのです。
顧客企業のある部署から入手した情報を他の部署に当てることもします。例えば東京本社の人に「栃木と茨城の工場長と先日お話したのですが、○○という問題意識を持っているようですね」などと言うと、意外に知らないこともあるんです。そうすると「よく事情がわかっているね」と信頼してもらえ、もう一段深い情報を得られたりします。

アクティブリスニングでは、7〜8割は相手の話を聞き、自分が話すのは2〜3割がベストだと言われます。自分が話しすぎて相手に「そうだね」と言わせてしまう形になると、結果的にフィールドセールスに渡した段階で、実はお客さまはそこまで興味がなかったなんてことにもなりかねません。
当社もそうですが、最近ではトークをAI搭載の営業支援ツールで録音し、話した内容はもちろん、声のトーンや話速、ラリーの回数、沈黙の時間などをデータ化し分析している企業がたくさんあります。パフォーマンスが高い人がどういう話し方をしているのかデータ上で自分と比較できるので、そうしたツールも使いながらアクティブリスニングのスキルを高めることが可能です。
ただ、表面上会話がスムーズに進んだとしてもそれだけでは不十分です。自社の製品・サービスを買う必要性と予算が相手企業にあるのか、タイミングはいいのか、競合と比べて優位性があるのか、最終的な決裁権を持つキーパーソンは誰なのか――。我々はBANTC(バントシー)と呼んでいますがBudget(予算)、Authority(決裁権)、Needs(必要性)、Timing(時期)、Competitor(競合)を聞き出すスキルを磨くことが大切です。
③の仮説思考は①の情報収集と②のアクティブリスニングに共通して必要なスキルです。
情報は集めるだけでは意味がありません。僕も若い頃、先輩から「君は情報しか上げてこない。情報は誰でもしゃべれるんだ。情報じゃなくて君の知恵は何?」とよく怒られました。得た情報をもとに、お客さまの立場に立てばこういうことが言えるんじゃないかと仮説を立てる。それが仮説思考です。自分ごと化して「知恵」としてお客さまに伝えられて初めて、その情報に価値が生まれます。
「一人で勝つな、一人で負けるな」
④のチームワークについて、僕はいつも「一人で勝つな、一人で負けるな」と言っています。従来の営業はノウハウが属人化していましたが、インサイドセールスではノウハウや手柄の独り占めはご法度。成功例だけでなく失敗例も仲間と共有し、苦しんでいる人が隣にいれば手を差し伸べてほしい。Sympathy(同情)ではなくEmpathy(共感)の力を持っている人、自己開示力がある人はインサイドセールス向きです。
よくミーティングで「何かありますか」と聞かれてシーンとなっちゃうケースがあるじゃないですか。僕はあれが嫌で、2秒の沈黙が2年間に感じられます(笑)。とかく日本人は高尚なことを話さないといけないと思い込んでいるようですが、単なる感想であってもチームで気持ちを共有することにつながりますから、いいんです。とにかくインサイドセールスでは「みんなで勝ちに行く」というマインドが大切です。
⑤のSFAは、Sales Force Automationの略語で営業支援ツールを使うスキルです。富士通でもセールスフォース社のCRM(顧客関係管理ツール)やユーザベースの市場・企業分析ツールのFORCAS、SPEEDAなどさまざまなデジタルツールを使っています。最初から使いこなせないとダメというわけではありませんが、拒否感があるのは困る。いいチームワークがあれば、困った時は周りのメンバーが助けてくれますから、教わりながらレベルを上げていけばいいと思います。