倒産確率も隠さない星野リゾート 内定者に薦める2冊
社会人1年目の課題図書同書は、人生100年時代にはお金や家といった「有形資産」だけでなく、目に見えない「無形資産」の重要性が増すと指摘する。「無形資産」を構成するのは「生産性資産」(スキルや仲間、評判)「活力資産」(心身の健康や友人、愛)、「変身資産」(変化に対応するための自己理解や多様な人脈)の3つ。鈴木さんは、星野リゾートでの仕事を通じてこの無形資産を育んでほしいと話す。
「私たちが携わるサービス業は『感情労働』とも言われるように、目に見えない感情を扱う仕事です。お客様の感情を理解し、自分の感情をフルに使って表現し、お客様の記憶に残る提案をしていく。そのためには高度なコミュニケーション能力が必要です。同時に、お客様に心から喜んでいただくには社員一人ひとりが自分の頭で考え、『良い塩梅(あんばい)』を見つけなくてはなりません。まさにAI(人工知能)にはない人間ならではのクリエイティビティーが求められます。それともう一つ、コロナ禍で私たちは環境変化に対応して自分たちを変幻自在に変えていく『変身資産』の重要性も再認識しました。そういう視点から『LIFE SHIFT』を読むと、星野リゾートでの日々の仕事は無形資産を育むことにつながるというのが理解してもらえると思います」
フラットな組織文化を支えるロジカルシンキング

「フラットな組織文化を実現するには、相手に自分の意図をわかりやすく伝える力が必要。ロジカルシンキングはその土台になる」と語る鈴木さん
一方、『頭がよくなる「図解思考」の技術』は、自分の考えを図で整理し、わかりやすく人に伝える技術について書かれた本だ。著者はリクルートや出版社などを経てウェブマーケティング支援のショーケースを共同創業した永田豊志氏。知的生産研究家として知られ『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』などの著書がある。
「こちらはロジカルシンキングの基礎を学べる本として薦めています。この分野ではバーバラ・ミント氏の『考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則』が有名ですが、かなり難しくて社会人1年目の人にとってはハードルが高い。その点、この本は非常に実践的かつシンプルで、紹介されているフレームワークをいくつか組み合わせれば、大体の事柄は整理できます」
ロジカルシンキングは社会人の基礎的なスキルとも言われるが、星野リゾートがとりわけそれを重視するのは、同社が「競争力の源泉」と位置付けるフラットな組織文化と深く関わっているからだ。
「誰もが対等かつ自由に意見を言い合えるフラットな組織を成り立たせるには、一人ひとりが自分の考えを整理し、相手がわかるように伝える力が必須。伝えられた側も、相手が言わんとすることを構造的に理解できなければ、良い議論はできません。仕事に関する知識や経験が浅い新入社員であっても、当社のフラットな組織文化の土壌にまずは慣れて議論に参加してほしい。そのベースとなる力をつけるのに、この本はとても役立つと思います」
同書のポイントである「図解」は、運営する各施設でのオペレーションと相性がいいという。例えばスタッフのシフトを組む際には、顧客の流れに沿って、フロント、調理場といった各現場でどういう動きが生じるかをフロー図に起こして整理する。鈴木さんは「図解は私たちが日常的に慣れ親しんでいる思考の整理法でもあるのです」と話す。
施設でのオペレーションとフラットな組織文化を新入社員が実際に体感するのが、Warm-Up Camp(ウオームアップキャンプ)だ。約1週間、自社の運営施設に泊まりこみ、星野リゾートで働く上で必要なスキルや考え方を、食事の提供や客室整備などのチーム活動を通じて習得していく。
「座学の段階では簡単そうに思えたことも、やってみるとなかなかうまくできません。それぞれが原因や改善策を考え、チームで話し合いながらPDCA(計画・実行・評価・改善)やホウレンソウ(報告・連絡・相談)といった基礎も学びます。その間何度も、本当にフラットに話し合えているかどうかが問われます。教えてもらうという受け身ではなく、自分たちの頭で考えながらサバイブして(困難を乗り越えて)いかなくてはならない。『研修』ではなく『Camp(キャンプ)』と名付けている意味もそこにあります」