不妊治療、伝えやすい職場に メンター指名や専門窓口
ダイバーシティメンター指名制度や専門窓口設置

企業の模索は始まっている。コンサルティング会社のワーク・ライフバランス(東京・港)は不妊治療も含め、仕事や家庭の悩みを相談する「メンター」を指名できる制度を採用している。部署や社歴は不問で、希望する相手を半年ごとに1~2人選べる。平均で月1回程度の面談を推奨し、適切な助言をした場合は人事評価にもつながる。
同社では研修を受けた従業員による全社員対象の説明会も毎年開く。自身も不妊治療の経験者である工藤真由美取締役は「自分もメンターとして相談を受けてきた。話しやすい環境を作り、必要があれば後押しをしてあげることが大切だ」と話す。
オムロンは私生活に関する課題などを相談する専門窓口を12年に設けた。不妊治療を検討する従業員から相談があった場合、30~40代の経験者の事例を匿名の形で紹介するという。ダイバーシティ&インクルージョン推進課の上村千絵課長は「身近にモデルとなるキャリアを歩んでいる人がいると知ることが力になる。上司との話し合いも進みやすくなる」と話す。
北海道ガス(札幌市)は21年、婦人科医を招き、不妊症に関するセミナーを実施。人事部の担当者は「今年度から新たにキャリア相談に関する面談を設けた。部下のことを知る機会を増やしたい」と力を込める。
相談を受けたら「相手の意向を聞ききる」

相談の心理的な抵抗感を減らす努力も不可欠だ。不妊治療と仕事の両立を支援する一般社団法人リプロキャリア(東京・港)の平陽子代表は「管理職は不妊治療に関する研修を受けたことを部下の前で話してほしい。相談しやすい環境につながる」と話す。
厚労省が推奨する「不妊治療連絡カード」を使う方法もある。特に配慮が必要な事項などを主治医に記入してもらい、上司や人事部に提出する。同省の担当者は「社内への相談のきっかけに活用してほしい」とする。
実際に相談を受けた際の対応も気をつけなければならない。リプロキャリアの平代表は「部下の考えは十人十色。過剰に配慮するのではなく、相手の意向を聞ききることが大切」と話す。NPO法人Fine(東京・江東)の松本亜樹子理事長も「今の職責やプロジェクトを全うしたい人がいる一方、業務過多で治療に支障がでる人もいる」といい、話し合いの重要性を説く。
Fineが17年に不妊治療経験者ら5526人に行った調査では、4割の人が治療のために「働き方を変えざるを得なかった」と回答。うち半数は「退職した」と答えた。松本理事長は「治療がうまくいかなかった時を考えると、会社に話しにくいのは分かる。だが同僚でもよいので話しておくと心が楽になる。不妊治療をきっかけにした離職の防止にもつながる」と話す。
主体的なキャリアを
住友生命のアンケートによると、治療にかけられる期間の平均は2年11カ月だった。保険適用の範囲が拡大しても、治療が長引けば経済的負担は依然として小さくならない。そのため年収が減る長期休暇を選ばない人もいる。テレワークの拡充など、働き方の柔軟化も併せて重要になる。通院し続けるため、転勤の可否などについて話すことも大事だ。
同社は21年4月から、転勤がないコースや地域を限定した働き方などを自由に選べる制度を作った。人事部の担当者は「プライベートを踏まえて、主体的に自分のキャリアを考えてほしい」と話す。
(高橋耕平)