不思議な認知症の世界 旅するように味わうガイド
人生の景色が変わる本(27) 『認知症世界の歩き方』
ブックコラム要点3 奇妙な体験を招く感覚の不具合
目、耳、舌、鼻、皮膚など、感覚器官(あるいはそれらに関わる神経系)の不具合が、認知症の症状の原因であることも多い。例えば皮膚感覚の変調のせいで、普通のお湯が極端に熱く感じられる、ぬるぬるした不快感を覚えるといった症状が生じ、お風呂を嫌がったりする。五感だけでなく、内臓感覚や時間感覚の衰えやズレも症状に深く関わる。前者は喉が渇いても気づかない、尿意を感じられずトイレに失敗するなど、後者はいつもコンロの火を消し忘れる、30年前と先月を区別できなくなる、などのトラブルを招く。
要点4 脳の高度な機能が普通の生活を支える
何かを分類する、記号化する、複数の情報を統合して判断する、などができるのは高度な思考力があってこそ。この力が損なわれると、生活の随所で途方に暮れることになる。例えば、マヨネーズが「調味料」に属することを思い出せず、売り場を見つけられなかったり、案内板にあるトイレの記号が理解できなかったり。電車とホームの隙間が深い谷のように見える、といったこともある。これは、目から入る2次元情報をうまく3次元に変換できないためだ。
要点5 認知症の症状は多様。ひとくくりにしない
1つのことに固執して注意を他に向けられないかと思えば、周囲のことに気が散って集中すべきことに集中できなかったりもする。事実ではないことを事実と思い込み、訳もなく不安にさいなまれ、怒りっぽくなることもある。認知症の症状は実にさまざまで、しかも人によって違う。「認知症はこう」とひとくくりに決めつけないで向き合うことが大切だ。
(手代木建)
[日経ウーマン 2022年1月号の記事を再構成]