ビッグオリジナル あぶさん・三丁目で刻む大人の50年
「ビッグコミック」「ビッグコミックオリジナル」(下)
ヒットの原点新時代を担う漫画家を迎え入れ
総勢8人の「オリジナル」編集部は複数の長期連載を抱えつつ、次の柱探しを怠らない。実際、長期連載が目立つものの、連載本数の半分以上は近年にスタートした作品だ。新たな漫画家を呼び込むにあたって、「オリジナル」の強みになっているのは、増刊号の存在だ。隔月発行(偶数月の12日発売)の姉妹誌で、ここから世に出た漫画家や作品は少なくない。
たとえば、ジャズ奏者が主人公のヒット作「BLUE GIANT」で知られる石塚真一氏もその1人。出世作となった山岳漫画「岳」は「オリジナル」と増刊をまたいで連載が続いた後、「オリジナル」に落ち着いた。今では「オリジナル」で約15年にも及ぶ連載が続く、安倍夜郎氏の「深夜食堂」も初登場は増刊だった。

2021年秋には4号連続で新連載を始めた
増刊で19年から連載が始まり、高い評価を受けている話題作が漫画づくりの世界を描く「東京ヒゴロ」だ。「鉄コン筋クリート」「ピンポン」などで知られる松本大洋氏が初めて漫画の世界を題材に選んだ。大手出版社を早期退社した漫画編集者が理想の漫画誌を立ち上げる取り組みを描いている。
有望な漫画家を早くから迎え入れてきた。たとえば、「20世紀少年」や「MONSTER」のヒット作を持つ浦沢直樹氏は85年に軍事インストラクターが主人公の「パイナップルARMY」で「オリジナル」にデビュー。「スピリッツ」で「YAWARA!」を描いた後、88年からは「オリジナル」で「MASTERキートン」を連載した。「ビッグコミック」ファミリーで育ったともいえそうなキャリアだ。
原作者と作画者を組み合わせるのは、漫画編集者のセンスが問われる仕事だ。17年から連載が始まった「昭和天皇物語」では「歴史探偵」を自認した作家・半藤一利氏の原作と、麻雀(マージャン)漫画「麻雀飛翔伝 哭きの竜」や将棋漫画「月下の棋士」を手がけた能條純一氏の作画を引き合わせてみせた。
ホラー作品で世界的な評価を得ている伊藤潤二氏が恐怖表現で再構成したのは、太宰治の「人間失格」。ペット業界の内部を照らし出した「しっぽの声」では漫画原作者の夏緑氏と作画のちくやまきよし氏が組み、さらに動物愛護運動に熱心なタレントの杉本彩氏が協力した。こうしたチームづくりでは「オリジナル」の編集部員がプロデューサー役を務めることが多いという。

「三丁目の夕日」は20年に連載1000回を迎えた
「オリジナル」の主な読者層は30~50歳で、35~55歳の「ビッグコミック」より5歳若いポジションだ。しかし、「三丁目の夕日」が描く昭和30年代生まれの60代読者も少なくない。先細りの心配は無視できない。16年からデジタル版を創刊し、紙雑誌と同時に配信している。「駅キヨスクが減り、読み手との接点が減る傾向にある。紙雑誌はサイズ感や手触りに優れているが、漫画をスマホで縦に読むような読者が増える中、デジタル版は新しい読み手の受け皿になる」と期待する。
だが、「若い読者に合わせて、作品の雰囲気やテーマを若返らせるつもりはない」と、安易なリニューアルは否定する。「『オリジナル』にはこれまでの立ち位置があり、読者もそれを望んでいる」という石原氏の言葉には、50年間に読者と結んだ絆と、トップ雑誌ならではのプライドがうかがえる。
「ビッグ」でかつ「オリジナル」という、二重にきついミッションを雑誌タイトルで背負わされながら、数々のヒット作を送り出してきた「オリジナル」。石原氏は「あり得ない話だが、万が一、『ゴルゴ13』を『オリジナル』に引っ越しさせたいという提案があっても、丁重にお断りする。それは『オリジナル』じゃないからだ」と笑った。