変わりたい組織と、成長したいビジネスパーソンをガイドする

当時、精鋭が集う大手企業向けの営業部隊で抜群の成績を上げ、社内外でいくつもの賞を受賞していた。それは個人としてはうれしかったが、経営者の視点で改めて振り返ると、色あせて見えた。物事が今までと少し違って見え出した頃、リクルートが買収した英国の人材派遣会社の最高経営責任者(CEO)補佐役の社内公募があった。ビジネス英語、マネジメント経験、海外駐在経験などの応募要件を1つも満たしていなかったが、迷うことなく手を挙げた。

「単純に面白そうだなと。落ちて当然だし、落ちたからって死ぬわけじゃないし。やりたいと思ったら私の場合、あまり力まず、気軽に手を挙げます。すると案外『変なヤツだけど賭けてみるか』と面白がってくれる人が現れるんです。特にリクルートという会社はそうですね」

ロンドン赴任、人生初の「どアウェー」

しかし、赴任したロンドンで待っていたのは、絶対的な拒絶だった。現地法人のスタッフからすれば、業績の悪化で極東の聞いたこともない会社に買収され、ただでさえ士気が上がらないうえ、よりによって20代の若い女性が乗り込んできたのだから、面白いはずがない。

「半年近く、いろいろな提案をしましたが、何一つ聞いてもらえなくて、人生初の『どアウェー』でした。今振り返っても、あそこまでつらく、自分が試された経験はありませんでした。英語で苦労したかどうかって? いや、もうそれ以外が大変過ぎて、何も覚えてないです」

しかし、赴任後1年後には当初彼女を忌み嫌っていたCEOから後任に指名された。一体、どんなウルトラCを使ったのか。

瀬名波氏によると、きっかけはスタッフ全員が危機感を共有できるような「キックオフミーティング」をCEOに持ちかけたことだった。しかし彼は顔を真っ赤にして怒り出した。

「当時その会社は赤字転落寸前でした。でも会社の置かれた状況を正直に社員に伝えることは、彼の経営者としての力量不足を部下に告白するのにも近く、受け入れたくないのは当然です。怒った彼は『会社が危機だとわかれば優秀な人材から辞めてしまい、ますます状況が悪化する。そうなればこの会社は本当に取り返しがつかなくなってしまう。一体君はその責任を取れるのか』と迫ってきました」

「それに対して私は、『リストラクチャリングは絶対に必要。あなたにもそれはわかっているはず。でも、それを社員に言わないまま実行すると、みんな余計に不安になる。そうなったら経営に対して不信感が芽生えて、いい人から順に辞めちゃうんじゃない? だったら、なぜリストラが必要なのか説明して、こういうプランだったら自分たちは変われるはずだと思える具体的な案を示すのが一番リスクを小さくできるはず』と説得しました。『それでも辞める人は辞める。いいじゃない、それで』と」

ロンドン赴任時代、オフィスのRed Nose Dayイベントにて。(「RED NOSE(赤い鼻)」をつけて身近な人と笑顔を贈りあうチャリティーイベント、右が瀬名波氏)

ロンドン赴任時代、オフィスのRed Nose Dayイベントにて。(「RED NOSE(赤い鼻)」をつけて身近な人と笑顔を贈りあうチャリティーイベント、右が瀬名波氏)

こん身の説得にCEOも折れた。赴任から半年後の12年11月、ロンドンのホテルに社員300人が集まり、キックオフミーティングが始まった。CEOが、事前に瀬名波氏が準備したスライドを見せながら話しはじめた。最初はなごやかだった雰囲気が、会社の売り上げ、利益ともに激減していることを示す棒グラフが映し出された瞬間、凍りついた。

「その場にいた全員がハッと息をのむ音が、舞台袖にいた私にも聞こえたんです。その瞬間、ロンドンに来てようやく一仕事したなと思いました。その日を境に、大胆な改革案が現場からどんどん出てくるようになり、私自身もようやく仲間として受け入れてもらえたんです。よく『20代で現地法人のCEOを任されて、素晴らしいキャリアですね』などと言われるのですが、私にとって肩書はどうでもいい。言葉もバックグラウンドも全く違い、最初は敵対関係にあった人たちと1つのチームになれた、真の仲間になれたという経験の方に、何事にも代え難い価値がありました」

瀬名波氏は、どうしてもその華やかなキャリアに注目が集まる。入社早々、社内の花形とされる経営企画室に配属され、その後も大手企業相手の営業、英国現地法人CEO、人事統括室長、現在同社の成長の柱となっている米求人検索サイトの「インディード」や口コミ求人サイトの「グラスドア」での要職歴任と、ずっと日の当たる道を歩んできた。だが当人は「新しい仕事にその都度、素直に取り組んできただけ」とあっさり言い切る。その力みのなさは、生来の性格と、会社にしがみつくつもりがハナからないからなのか。

取締役への就任が決まった際も、「旅を終え、いつかこの会社を卒業するタイミングで、自分は何に心血を注いできたと胸を張って言えるか」を真っ先に考えたという。

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