リクルートHD 30代女性COOが困難に挑戦し続ける理由
リクルートHD取締役兼常務執行役員兼COO 瀬名波文野氏(下)
キャリアの原点1番になることにどういう意味を持たせるか
「当時も今も、会社としてはHRマッチング事業で世界のリーダーになるという目標を掲げているんですが、月とか太陽からみたら、地球上でどのプレーヤーがナンバーワンかなんて意味がないですよね。A社でもB社でも誤差の範囲でしょう。だからこそ、我々が1番になることにどういう意味を持たせるのか。より大きくなっていく影響力を社会のためにどう使っていくかの方が大事だし、本質的だと思うんです」
そうした考えのもと、瀬名波氏が中心になってまとめたのが21年5月に公表した「サステナビリティへのコミットメント」だ。持続可能で豊かな未来の実現を目指し、環境(E)・社会(S)・企業統治/ガバナンス(G)のそれぞれの分野で、30年度という時間軸を区切り、すべてのゴール設定に具体的な数字を入れているのが特徴だ。
瀬名波氏によれば、出発点は、経済協力開発機構(OECD)の19年の調査リポートの中に「世界の約4割の人々は3カ月収入がなければ貧困に陥ってしまう」というデータを見つけたことだった。人々の生活基盤となる「仕事」に関する事業を世界中で展開しているリクルートグループだからこそ、失業が招く貧困や、貧困がつくり出す深刻な社会の「不」の解消のためにできることがあるのではないか。そこから、自分たちの事業のど真ん中で、社会や地球環境にポジティブなインパクトをもたらしていくことを経営戦略の1つに据えることにしたのだという。
30年度までに「仕事探しに掛かる時間を21年度に比べ半分にする」「雇用市場における障壁を低減させることで累計約3000万人の就業をサポートする」「グループ全体における上級管理職・管理職・従業員それぞれの女性比率を約50%にする」「取締役及び監査役全体の女性比率を約50%にする」など、掲げた目標はとてつもなく高い。実現しなかった時に責任を問われることを恐れる気持ちはないのか。
すぐ解がわかるものなんてつまらない
「確かにいろんなステークホルダーから、目標は素晴らしいけどどうやって実現するつもり?と聞かれます。正直言って、現時点で、こうしてこうすれば達成できるという道筋が見えているものは1つもありません。無責任に聞こえるかもしれませんが、それでいいと思っています。そんなすぐに解がわかるものなんてつまらないし、本当に新しいこと、価値のあることが簡単に達成できるはずがないからです。こういう世の中にしたいのだという強い思いを持って、試行錯誤も失敗も全てシェアしながら、愚直にコツコツやるべきことをやっていくしかありません」
そう話す一方で、「私はいつも自分の能力以上のところに無邪気に突撃していくので、もちろんうまくいかないことの方が圧倒的に多いんですけどね」と本音を漏らす。家ではワーワー声を上げて泣くこともあるという。
「でも、最後はおいしいご飯を食べて、よく寝て、起きたら、『さぁきょうも頑張ろう』って。自分の機嫌くらい自分で取ることを大事にしています」
トレードマークとも言えるとびきりの笑顔で、そう締めくくった。
(ライター 石臥薫子)